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イスラームヨウゴノシンケンキュウ

イスラーム用語の新研究

水谷周

発売日 2021/07/07

判型 四六判   ISBN 978-4-336-07227-6

ページ数 264 頁   Cコード 0314

定価 3,080円 (本体価格2,800円)

内容紹介

イスラームと日本の付き合いは、ようやく一〇〇年を越えた。その間、例えば「予言者」は「預言者」と書き改められた。前者は予告をするのが役目とすれば、後者は神から啓示を預かることが使命なので、両者は全く異質なものである。そうすると、予言者とした人は原語の「ナビー」という用語の誤訳をしたというよりは、そもそも大きな誤解を犯していたのかも知れない。言葉は慎重に選ばれる権利を有しているとも表現できるだろう。
異文化を語るときには、これと同類の問題は常に存在してきたし、これからも常にはびこる問題である。だからこそ「異文化」なのだ。ただしそれは、常に注意深く精査して、整理整頓する必要がある。これも一般的には、誰しもがうなずける課題であろう。
そこで本書はまだまだ新しい宗教であるイスラームの、基本的な用語に関する精査と様々な提案を目的としてまとめたものである。その中には新たな用語である「静穏」といった場合には、その広範な意味合いを確定することが課題となる。あるいはしきりに使用される「聖」という用語については、それはイスラームでは受け入れられないものであることを明らかにすることが課題となる。こうして具体的な課題はその用語によって異なっている。
ただしアッラーは怒りの神ではないことや、イスラームの二大価値は慈悲と正義であることなど、全体としてイスラームのイメージも更新されることが期待される。その際、「預言者」を導入する時にも直ちには理解が得られなかったように、本書で取り組む課題とその結論についてもすぐに全面的な賛同を得るとは限らず、関係者の賛否両論があるかも知れない。しかしそのような議論の喚起自体も本書の想定内の事態であり、したがって広義の目的に入るものである。
時代は新型コロナ感染症に揺れ動いてきた。しかしその中でも足元を見つめ直すような地味な尽力が、日本におけるイスラームの、そしてまだ耳目に新しい文化の正しい姿への接近に資することがあればと願い、本書を刊行する。

著者紹介

水谷周 (ミズタニマコト)

京都大学文学部卒業。博士(イスラーム思想史、ユタ大学)。社団法人日本宗教信仰復興会議代表理事、日本ムスリム協会理事、国際宗教研究所顧問などを務める。日本における宗教的覚醒とイスラームの意義の啓発に努める著作多数。
イスラーム信仰関係以外の著作として、『現代アラブ混迷史 : ねじれの構造を読む』(平凡社)、『集団的自衛権とイスラム・テロの報復』(青灯社、共著)、『Liberalism in
20th Century Egyptian Thought: The Ideologies of Ahmad Amin and Husayn』(Amin, London, I.B. Tauris)などがある。

目次

第一章 「アッラー」について 11

一、アッラーへのアプローチ 13

二、「アッラー」の二つの用法 14

三、美称の全体像 17

四、アッラーの覚知 20

五、「アッラー」の語源 24

六、アッラーとその美称の唱え方 25

七、作法と注意点 27

八、アッラーをいつも意識すること 28


第二章 イスラームに「聖」概念のないこと 35

一、日本製の「聖」の諸事例とイスラームの原義 37
(一)聖地 (二)聖クルアーンと聖預言者伝承 
(三)「聖」使用の他の事例(聖者、カアバ聖殿、聖法、聖月、聖魂、聖典)

二、イスラームにそもそも聖概念のないこと 55

三、最後に 57


第三章 タウヒード(単一性)・シルク(並置)関連 65

一、アッラーと物事の存在感覚 68

二、タウヒード概論 70

三、タウヒード詳論 72
(一)アッラーは唯一の創造主であること (二)アッラーは崇拝の対象として単一であること
(三)アッラーの美称と属性は単一であること

四、シルク論の展開 84
(一)シルクの定義 (二)シルクの種類 (三)シルクの諸例 (四)ビドア(逸脱)論の要点


第四章 ラフマ(慈悲)・アドル(正義)関連 97

一、ラフマ(慈悲) 99
(一)ラフマの中心性 (二)和訳語の探求

二、アドル(正義) 114
(一)定義 (二)個人的正義と社会的正義 (三)正義と平等 (四)正義と慈悲 
 (五)クルアーンから (六)不正 (七)正義と現代政治


第五章 サキーナ(静穏)・フィトラ(天性)関連 131

一、クルアーンに見る語義とその広がり 134

二、預言者伝承の実例 138

三、指導者の事例 142

四、語義の広がり 144

五、他の精神的諸側面への波及 145

六、サキーナ論の展開 158


第六章 ルーフ(魂)・ナフス(精神)関連 167

一、クルアーンでの扱い方 171

二、『アルルーフ』とそのまとめ 173
(一)魂も死ぬのか、それとも体だけが死ぬのか (二)死亡と復活の日までの間の魂の居場所はどこか  
(三)最後の審判の時には、魂は墓の中の死者に戻るのか
(四)精神(ナフス)と魂(ルーフ)は同じことか、それとも別なものか (五)精神の実態について  
(六)魂・精神と信仰 (七)まとめ

資料 アルジャウズィーヤ著『霊魂』目次 195


第七章 サッバハ(賛美)・ハムド(称賛)関連 201

一、サッバハの意味と用法 204
(一)辞書的な意味 (二)クルアーン上の用法 (三)まとめ

二、ハムドの意味と用法 209
(一)辞書的な意味 (二)クルアーン上の用法 (三)まとめ

三、和訳語の比較と検討 212


第八章 マスジド(礼拝所)・ハッジ(巡礼)・ジャンナ(天国)関連 217

一、マスジド関連 219
(一)マスジドの語源を巡る諸説 (二)日本ムスリム協会の決定 (三)礼拝所の異なる呼称と関連施設

二、ハッジ関連 232
(一)ハッジの種類 (二)主要行事の用語

三、ジャンナ関連 239
(一)天国の呼称 (二)天国の人、天使、悪魔

おわりに 247

参考文献 251

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