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  4. 神武天皇論

ジンムテンノウロン

神武天皇論

発売日 2020/06

判型 A5判   ISBN 978-4-336-06667-1

ページ数 412 頁   Cコード 1021

定価 3,740円 (本体価格3,400円)

内容紹介

 我が国第一代天皇のご存在は、悠久の古より現代に至るまで約2千年にわたり伝承されている。国内外の危機や大改革にあたっては、建邦大業の祖が意識され、新たな時代が展開していった。
 本書は、神武天皇に関する史料を再検討したうえで、その御一代と御代を考古学的研究成果も用いて描き、次いで各時代の「神武天皇観」をたどるものである。
 序論では、神武天皇を論じるうえでの根本史料である記紀が撰録された時代とその実情を検討し、神武天皇のご実在に関する問題点を再考する。
 第1章では、神武天皇の在世を弥生時代とし、記紀をベースに考古学的研究成果を参照しながら、ご生涯と御代を描き出す。
 第2章では、飛鳥・奈良という、記紀を始めとする神武天皇に関する史料が成立した時代を扱う。これら史料に取り込まれた伝承を検討するとともに、当時の天皇や貴族の神武天皇への思いを探る。
 第3章の平安から中世では、天智・桓武・醍醐・村上天皇の御代が「聖代」として仰がれるなか、山陵に対する祭祀が衰退し、神武天皇陵などの遠陵は荒廃していった。しかしながら、平安時代には日本紀講書などを通じて、第一代天皇であることは朝廷や知識人の共通認識となっており、平安後期から中世の史書・物語・史論書にも引き継がれる。このような認識は日蓮や吉田兼俱などに引き継がれ、信仰の広がりとともに近世に伝わっていく。
 第4章の近世では、日本書紀が出版され家の学問としての秘説から解き放たれる。その嚆矢となったのは、吉田神道に共鳴し、「神武より百数代の末孫」という認識をもった後陽成天皇による「慶長勅版」である。日本書紀の出版と注釈によって神武天皇への景仰が広がり、宮や陵の探求や修陵へと進展し、第一代天皇を仰ぐ思いは尊皇思想のおおきな柱となる。
 第5章は幕末・明治期である。神武創業への回帰は「王政復古の大号令」の一節「諸事神武創業の始に原き」に源を発するが、これを実現するための政治的前提は孝明天皇の御代に始まる。天皇は対外的危機のなかで国家を守る祈りを捧げるために、神武天皇陵の修補に至る。次いでその思いを受けた維新の志士や幕末国学者の神武天皇観を検討する。孝明天皇から親しく神事を教育された明治天皇は、父帝の果たせなかった神武天皇陵参拝を実現され、祭政一致をめざして祭儀の大きな改革を行う。太陽暦の導入直後に神武紀元が定められ、神武天皇御即位日を紀元節とするに至る。さて、幕末に神武天皇陵の所在が確定して修陵されると、神武天皇を奉斎する神廟建設の議論が高まりを見せる。長らく不明であった橿原宮の所在地特定が民間から起こり、橿原神宮の創建へと至る。
 第6章では、近代国民教育の場において、児童たちはどのような神武天皇像を教授されたのかを、代表的な小学校の歴史教科書を資料として時代順に追う。
 第7章では、神道指令によって神社が一宗教法人となり、祝祭日改革によって紀元節が廃止されて「建国記念の日」が制定されるまでの攻防をたどる。
 神武天皇をご祭神として祀る橿原神宮の御鎮座130年記念出版。

著者紹介

清水潔 (シミズキヨシ)

昭和23年生。皇學館大学学事顧問、名誉教授。博士(法律学)。
主な著書に、式内社研究会編纂『式内社調査報告』全25巻(共編著、皇学館大学出版部、昭和51~平成2年)、『類聚符宣抄の研究』(国書刊行会、昭和57年)、『新校 本朝月令』神道資料叢刊八(皇學館大學神道研究所、平成14年)。

井上兼一 (イノウエケンイチ)

皇學館大学教育学部教育学科准教授。
主な著書に、皇學館大学教育学部創設十周年記念論集『教育の探究と実践』(皇學館大学出版部、平成30年)、藤田大誠編『国家神道と国体論――宗教とナショナリズムの学際的研究』(弘文堂、令和元年)(いずれも共著)。

遠藤慶太 (エンドウケイタ)

昭和49年生。皇學館大学文学部国史学科教授。博士(文学)。
主な著書に、『東アジアの日本書紀』(吉川弘文館、平成24年)、『六国史』(中公新書、平成28年)、『日本古代史における石清水八幡宮の意義』(石清水崇敬会、平成30年)。

岡田登 (オカダノボル)

昭和27年生。皇學館大学名誉教授。
主な著書に、『紀勢町史』(共著、紀勢町、平成13年)、『考古資料から見た志摩の歴史』(志摩市教育委員会、平成22年)、『大倭(日本)国家の成立と伊勢の大神宮』(登龍舎、平成30年)。

佐野真人 (サノマサト)

昭和57年生。皇學館大学研究開発推進センター准教授。博士(文学)。
主な著書に、『古代天皇祭祀・儀礼の史的研究』(思文閣出版、令和元年)、所功監修『京都の御大礼』(共著、思文閣出版、平成30年)。

清水節 (シミズタカシ)

昭和53年生。金沢工業大学准教授。博士(歴史学)。
主な著書に、栗田尚弥編『地域と占領』(共著、日本経済評論社、平成19年)。主な論文に、「CIE宗教課カンファレンスレポートの研究(その二)」(『日本学研究』第21号、平成30年)。

田浦雅徳 (タウラマサノリ)

昭和28年生。皇學館大学特命教授、アドミッション・オフィス室長。博士(文学)。
主な著書に、伊藤隆編『日本近代史の再構築』(山川出版社、平成5年)、『伊勢市史』第四巻近代編(平成24年)、ジョン・ブリーン編『変容する聖地 伊勢』(思文閣出版、平成28年)(いずれも共著)がある。

長谷川怜 (ハセガワレイ)

昭和61年生。皇學館大学文学部国史学科助教。
主な著書に、千葉功監修・尚友俱楽部・長谷川怜編『貴族院・研究会写真集』(芙蓉書房出版、平成25年)、朴美貞・長谷川怜編『日本帝国の表象』(えにし書房、平成28年)、生琉里教会編『満洲天理村十年史』解説(えにし書房、平成31年)などがある。

目次

 序  宮司 久保田昌孝
序 論  清水潔
 はしがき
 一、天武天皇の修史事業と『古事記』『日本書紀』
 二、神武天皇伝―『古事記』『日本書紀』の伝承
 三、「はつくにしらすすめらみこと」――神武天皇と崇神天皇
 四、神武天皇以後九代
第一章 神武天皇とその御代  岡田登
 はじめに
 一、天皇の御名
 二、御父母と御兄
 三、后妃と御子
 四、天皇御在世の実年代
 五、日向の時代
 六、御東遷とその経路
 七、橿原宮の時代
 おわりに
第二章 飛鳥・奈良時代の神武天皇論  清水潔
 一、大化改新と神武天皇
 二、神武天皇陵と帝系譜
 三、古事記序文と神武天皇
 四、万葉集――橿原の日知の御代
 五、懐風藻と日本書紀――「橿原建邦」
 六、『古語拾遺』と神武天皇
 七、新撰姓氏録と神武天皇紀
第三章 平安時代から中世における神武天皇観  佐野真人
 はじめに
 一、神武天皇陵
 二、『日本書紀』の講読
 三、史書にあらわれた神武天皇
 四、復古の目標
 五、神武天皇観の継承
 まとめ
第四章 神武天皇の末孫として――近世の神武天皇  遠藤慶太
 一、神武天皇の末孫として
 二、アジアのなかの神武天皇
 三、宮・陵・宗廟――神武天皇史蹟の顕彰
第五章 幕末・明治期の神武天皇論  田浦雅徳・長谷川怜
 はじめに――王政復古の大号令と神武創業への回帰
 一、神武創業への回帰を可能にしたものは何か
 二、激動の幕末政治史のなかでの孝明天皇のご治世
 三、維新の志士や幕末国学者に見る尊王思想と神武天皇への景仰
     ――神武天皇は志士たちにどのように意識されたのか
 四、孝明天皇の親王(明治天皇)へのご神事教育と継承
 五、明治天皇による神武天皇陵御拝
 六、祭政一致の理念と明治維新以降の宮中祭祀
 七、東京遷都と神武天皇祭典の御親祭
 八、太陽暦の導入と神武紀元の制定
 九、橿原神宮創建の沿革
第六章 近代日本の歴史教科書における「神武天皇」像  井上兼一
 はじめに
 一、近代日本における小学校教育の展開
 二、明治初年から検定期における「神武天皇」教材
 三、明治後期から大正期の国定歴史教科書
     ――国定第一~第三期の「神武天皇」教材
 四、昭和戦前期の国定歴史教科書――第四~第六期の「神武天皇」教材
 おわりに
第七章 「紀元節」の廃止と「建国記念の日」の制定  清水節
 一、神道指令と橿原神宮
 二、祝祭日改革と紀元節
 三、紀元節の存廃をめぐる攻防
 四、「建国記念の日」の制定

 執筆者略歴

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