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吉田初三郎 日本全国鳥瞰図集成 Ⅰ
《広域鳥瞰図》(図版篇・解説篇/全2冊)
発売日 2026/02/10
判型 A3横判変型(図版篇)/A4横判(解説篇) ISBN 978-4-336-07569-7
ページ数 832 頁 Cコード 0025
定価 91,300円 (本体価格83,000円)
「大正広重」吉田初三郎が残した美麗な鳥瞰図400点余をA3横判の大判で掲載。全鳥瞰図に研究者・美術館学芸員らによる解説を付し、各地の情報を満載した鳥瞰図裏面も漏れなく収録する決定版集成本(全3期)。本第Ⅰ回配本「Ⅰ 広域鳥瞰図」では、都道府県を越える広域および都道府県全域、ないしは鉄道・航路などのインフラストラクチャーを扱う鳥瞰図を集成。
【本シリーズの特徴】
❖吉田初三郎による鳥瞰図400点余を、「広域鳥瞰図」「市町村鳥瞰図」「主題別鳥瞰図」の全3期に分けて集成する決定版。各配本は、「図版篇」「解説篇」の2分冊とし、「全国」「北海道」「東北」「関東」「北陸・甲信越」「東海」「関西」「中国」「四国」「九州」「外地(朝鮮・台湾・満州・樺太)」をそれぞれ章立てする。
❖「図版篇」は、「A3横判」の見開きで可能な限り大きく忠実に鳥瞰図を掲載。状態の良い原本を使用し、その多くについて新たに高精細スキャンを実施。アート紙に印刷することで、鳥瞰図の魅力を最良の形で味わうことができる。鳥瞰図に記載される地名についても、判読可能である。
❖「解説篇」では、図版篇に掲載した全鳥瞰図について、当該地方に通暁した各地の研究者・美術館学芸員などによる個別解説を付した。また各鳥瞰図の原画ほか、肉筆の鳥瞰図についても40点以上を掲載した。
❖「解説篇」では、図版篇に収録した鳥瞰図の異版や類似の鳥瞰図を多数掲載。また鳥瞰図の構図タイプの分類を施し、膨大な初三郎鳥瞰図について一定の類型化を試みた。
❖「解説篇」の末尾には、図版篇に掲載した鳥瞰図の裏面についてもすべて掲載。当時の各地方の情報を集積した、地方史研究の宝庫として有用。
特別協力=八戸クリニック街かどミュージアム
*全巻構成
Ⅰ 広域鳥瞰図 ISBN 978-4-336-07569-7 [第1回配本]
Ⅱ 市町村鳥瞰図 ISBN 978-4-336-07572-7 [第2回配本]
Ⅲ 主題別鳥瞰図 ISBN 978-4-336-07575-8 [第3回配本]
【編者のことば】
近代日本における視覚の冒険
堀田典裕(名古屋大学環境学研究科准教授)
吉田初三郎は、大正初期から昭和中期まで、おびただしい数の鳥瞰図を描いた希代の絵師である。皇太子時代の昭和天皇からも激賞され、「大正広重」と謳われた彼の鳥瞰図は、没後にいったんは「過去の遺物」となったが、熱心なコレクターの存在により再び陽の目を見、今では大変な人気を博している。初三郎の鳥瞰図を集めた書籍も多々刊行されたが、それらは極小文字で書かれた地名の判読などが難しいなどの不足もあった。また、特定の部分のみを拡大した図版や、デジタルアーカイブにおけるクローズアップでは、鳥瞰図全体における部分の位置付けが困難となる。吉田初三郎の鳥瞰図は、原寸に近いサイズで、全体と部分を自在に行き来する「視覚の冒険」にこそ、その醍醐味がある。
本書では、A3横判という大判のアート紙によって吉田初三郎が残した美麗な鳥瞰図を可能な限り忠実に再現した。また地方史資料の宝庫たる鳥瞰図の裏面も掲載した。そして各地方に通暁した日本全国の研究者や美術館学芸員の力を借りて、鳥瞰図ごとの解説も付した。まさに吉田初三郎鳥瞰図の集成本として、決定版書籍となるべく編まれたものである。
明治期以来、全国に張り巡らされた鉄道網により、日本の国土は「国民国家」として統合された代わりに、各地の特徴ある風景は、断片的な「観光」の情報として微分された。初三郎は、一つの地方都市が近代化されるにつれて、その都市に固有の「郷土」や「故郷」の風景を炙り出した。全体と部分、広角と望遠という相矛盾する眼差しを帯びた初三郎鳥瞰図は、それら近代日本の姿を如実に浮かび上がらせる。読者の方々には、近代日本における「視覚の冒険」を十全に楽しんで頂けたら、編者としてこれに勝る喜びはない。
【推薦の言葉(五十音順)】
鳥瞰図を越えた マルチ図像だ!
荒俣宏(作家・博物学研究家)
初三郎の鳥瞰図といえば神田神保町を思いだす。昭和40年ごろには古書店の軒下、平台などに、「初三郎」と記された観音開きの一枚もの観光絵地図が山のように積んであった。これが滅法おもしろい。だって、絵地図なのに情報満載、どの地域の図にも、ハワイや樺太、香港といった信じがたい遠方までが図示され、しかも異様なまでに自然に収まっているのだ。いくら買っても、果てがないことも驚きだった。やがて初三郎の真の価値も実感した。自分が戦前の水族館の行方を探したころは、資料が皆無だった。しかし大連の「星ヶ浦水族館」という謎の施設が、初三郎の地図に出ていたのだ! 日本が開発したこの観光地と水族館の資料が、ついに発見できた。有名な大和ホテルの下の海岸に、その正面や構造まではっきりとだ。以来、初三郎は我が秘密資料でもある。「三・五次元の超望遠鏡鳥瞰図」と呼ぶしかない。昭和天皇が皇太子時代に修学旅行で初三郎を知り、あまりのおもしろさに歓喜したのは当然だ。遅すぎた復活を祝す。
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驚きと説得力に満ちた初三郎鳥瞰図の徹底した集成
木下直之(美術史家・東京大学名誉教授)
鳥瞰図という呼び名には、鳥になって下界を眺めたいという人間の昔からの希望が込められている。今なら飛行機の窓越しに、ドローンの映像に、宇宙衛星の画像に、いくらでも地上の風景を眺めることができる。しかし、吉田初三郎から送られてくる風景は、そのどれとも異なっている。
初三郎の絵図を目にしたところで、鳥になってのんびりと空に浮かんでいる気分にはなれない。風景の向こう側のふだんは見えないものがつぎつぎと目に入ってくるからだ。もちろん、そこには観光地や鉄道網や日本列島がわかりやすく示されるのだが、光や土や日本や外地いう観念、文化、そこでの人間の暮らし、さらには災害や戦争といった出来事までもが見える。
それを表現するために、初三郎は空間を自由自在にゆがめる。それは目を心地よく驚かせ、大胆に変形してなお説得力を持つ。初三郎の絵図を見る醍醐味だ。初三郎はしばしば「大正の広重」と呼ばれるが、構想力と独創性においては、むしろ北斎に匹敵するのではないか。
1600点を優に超えるという初三郎の絵図には、当たり前だが注文者がいた。それは鉄道省であり、地方公共団体であり、鉄道会社や観光業者であり、制作依頼にはそれぞれの思惑があった。初三郎が好きに描いたわけではない。したがって、鳥瞰図の裏面情報まで含めるというこのたびの徹底した『集成』は、初三郎の造形表現を楽しむ画集にとどまらず、絵図の向こう側にあるものまでを明らかにしてくれるだろう。
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地方創生を押し進めるテリトーリオ像の魅力
陣内秀信(建築史家・元都市史学会会長)
世界広しといえど、吉田初三郎が描き続けた作品群ほど、人々の心を惹きつける鳥瞰図というものを私は知らない。俯瞰した視点を自由に移動し自在に定められるダイナミックな構図の面白さに圧倒され、横長画面全体にぎっしり描き込まれた要素の多彩さに目を奪われる。なかでも日本の国土が誇る自然条件の多様さ、すなわち、山々と谷、川、湖、平野、そして複雑な海岸線が織りなす地形のナラティブな表現が「初三郎式鳥瞰図」の真骨頂だ。その土地の条件にそって人々の営みが生んだ、点在する都市や集落、寺社、名所、温泉など、さらには近代が創り出した新たな要素とその相互の関係性を、初三郎は広域圏のパノラミックな風景として見事に謳い上げる。
興味深いのは時代的な背景だ。一連の鳥瞰図が描かれた大正中期から昭和初期は、一方で、江戸時代に培われた固有の文化風土が色濃く受け継がれ、他方、明治以後の日本の産業化、近代化が大きく開花した時代に当たり、鉄道網が張り巡らされ、全国各地で近代の行楽地や文化施設、工場、発電所などの産業施設が続々と登場した頃に当たる。その新旧が混ざったこの活気ある時代の都市とその後背地に広がる田園の姿をリアルに読み取れるのが、実に楽しい。
初三郎が示した連携する都市群と背後に広がる田園も山も海も包含して捉える眼差しは、まさにイタリア語のテリトーリオ(地域、領域)という言葉と合い通ずる。高度成長期以後、都市化=工業化ばかりを追求し、田園、農村との繫がりを失った日本の都市にとって、吉田初三郎の鳥瞰図から読み取れる魅力的なテリトーリオ像は、地方創生を本格的に押し進める上での重要な出発点となるに違いない。
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名所をめぐる壮大な入れ子構造のパノラマ
山口晃(画家)
まだ学生の頃だったか、自作の街の絵を見せた方から初三郎の名を初めて聞いた。彼の絵が持つ特異な空間性を示唆され後日見てみると、なるほど名所図遠景の水平線にさりげなくニューヨークなどと吹き出しが付されており、これは珍だと思ったものだ。
自分でも都市鳥瞰図を描くようになってから得た知見で彼の絵を見直してみると、実に様々な創意工夫に気付かされる。自在な空間の歪め方はもとより、投影図と透視図のシームレスな繫ぎ方だとか、レンズ的な部分拡大のズーミング感、航路・路線・吹き出しなどが見事に絵画化され図と絵が渾然一体になった様だとか、地平線に向かって近景中景遠景の景色が逆に拡大してゆく仏画の如き構成のものもあり、見どころが尽きない。伝統的な青緑山水を、繫ぎの藤色によって近代的な色彩と両立させた山々の描写は、初三郎作品を下支えする大きな魅力だろう。
近世と近代、東洋と西洋、商業美術と純粋美術がギシギシとぶつかりながらも一つに練り上げられてゆくダイナミックな絵の中心にはしかし、具体詳細な描写ではなく、ぽっかりと空いた穴のように単に概念を指し示す地名などの文字が書かれた名札があるのみだ。ある意味身も蓋も無い中心の虚空、だがそれこそが、記憶の依代として強烈に作用する。
名所を記憶の集積として鳥瞰した初三郎とその作品自体をも「名所」として、彼の扱った名所ごと鳥瞰しようというのが本書である。壮大な入れ子構造がどのような大循環パノラマを見せてくれるのか大いに期待するところだ。
堀田典裕 (ホッタヨシヒロ)
1967年、三重県生まれ。名古屋大学大学院環境学研究科准教授。1995年、名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、デルフト工科大学建築学部研究員、名古屋芸術大学、非常勤講師などを経て現職。
主な著書に、『吉田初三郎の鳥瞰図を読む―描かれた近代日本の風景』(全国学校図書館協議会選定図書)、『自動車と建築』(平成23年度日本都市計画学会石川奨励賞および第33回国際交通安全学会賞)、『〈山林都市〉黒谷了太郎の思想とその展開』(第18回建築史学会賞)など。主な作品に、「各務原市合葬式墓地」「豊中のクリニック」「展覧会〈A-LOM: Architecture for Last One Mile 〉」などがある。







