発売日 2022/12/06
判型 A5判 ISBN 978-4-336-07443-0
ページ数 360 頁 Cコード 0010
定価 4,950円 (本体価格4,500円)
ルネサンス――
百科全書的哲人による自然魔術の書
『太陽の都』で知られる、異端の修道士カンパネッラ
足かけ28年の獄中生活に物した主著の一冊、遂に完訳!
神を戴き、天上界のマクロコスモスと地上界のミクロコスモスは照応する。「力」「愛」「知」を基本原理(プリマリタ)に、その視線は広く森羅万象へ――あらゆるものは「感覚」する。感覚なければ世界は混沌(カオス)と化する。神のもとに魔術は存在し、かたや似非魔術も存在し、カンパネッラはそれを暴く。魔術から科学へ、その移行期のルネサンス末期にあった「自然魔術」の大いなる隠微(オカルト)哲学体系。ヘルメス思想も色濃き、反アリストテレスの書。
「隠微(オカルト)哲学の驚くべき部分では、世界が生ける神と善智の像(かたち)で成っていて、森羅万象あらゆる部分やその粒子にも感覚が在る。その感覚は留意すべきほどに明暗が歴然とし、万事につけ一致点が見出せる。万物の理法や自然の秘密の幕の裡(うち)が明白になるのである」(本書「序」)
トンマーゾ・カンパネッラ (トンマーゾカンパネッラ)
南イタリア・カラブリア州の山村スティーロ生まれ。実家が貧困のため学校に通えずも神童の誉が高く、早晩詩作で頭角を現わす。14歳でドミニコ会の修道士になり、以後、修道院の図書館の本を渉猟し、反アリストテレス主義の立場を標榜。自然哲学者ベルナルディーノ・テレジオに私淑。ローマ教会から異端視され北イタリアへと逃亡、ガリレオ・ガリレイと親交を結ぶ。カラブリアに帰還後、スペイン当局の圧政下にある民衆を救おうと蜂起するも逮捕。ナポリの牢獄に足かけ28年間、ほぼ軟禁状態で過ごす。その間、旺盛な執筆力を発揮。出獄後、ドミニコ会から神学教授を授かり、異端の嫌疑の危険にフランスに亡命。パリのドミニコ会の宿坊にて死去(享年71)。邦訳に『太陽の都』(岩波文庫)、『ガリレオの弁明』(ちくま学芸文庫)、『哲学詩集』(水声社)など。
澤井繁男 (サワイシゲオ)
1954年札幌市生まれ。札幌南高等学校を卒業後、東京外国語大学を経て、京都大学大学院文学研究科博士課程修了。東京外国語大学論文博士(学術)。専門はイタリア・ルネサンス文学・文化論(特にトンマーゾ・カンパネッラ)。元関西大学文学部教授。作家としても知られる。著書に『イタリア・ルネサンス』(講談社現代新書)、『ナポリの肖像』(中公新書)、『ルネサンス』(岩波ジュニア新書)、『魔術師たちのルネサンス』(青土社)など。訳書にガレン『ルネサンス文化史』(平凡社ライブラリー)、デッラ・ポルタ『自然魔術』(講談社学術文庫)、ウィリアム J. パウズマ『ルネサンスの秋』(みすず書房)など。創作集に『澤井繁男小説・評論集』(平凡社)、『復帰の日』(作品社)他、多岐にわたる分野で著訳書多数。
【第一巻】
第1章 結果は原因の裡にあること、しかし諸元素と世界は感覚する。
第2章 第1章の命題に反駁する議論はない。
第3章 まずいことにルクレティウスは事物の感覚を否定しているが、ガレノスはなおのこと認めていない。しかし両名よりも賢明な人士たちは認知した。
第4章 感覚とは起こっている事象を論じることに伴って発生する情感を感知することであり、純粋な力を形成し、両者に不和を起こさない。
第5章 諸々の実体の動きと情感から感覚が立証され、感覚がなければ世界は混沌となるだろうし、生成も腐敗も顕現しないであろう。
第6章 事物の感覚について、他の自然学者の回答には重大な誤りが含まれている。
第7章 本能とは生来の感覚的衝動であり、それを肯定する人は他の本能も是認せざるを得なくなる。
第8章 本能によって生ずる出来事はみな、世界の諸部分と全世界の感覚の結果である。
第9章 万物は空虚を憎悪する、したがって相互の接触を感覚し享受し合う。世界は生きている。
第10章 自然の状態でなく無理に力を加えると空虚へと陥る。ここに反アリストテレス的感覚が証明される。
第11章 アリストテレスに対抗して空虚を禁ずるとすれば、自然はすべて感覚するに至る。
第12章 空間には事物を引きつける感覚が宿っていて、事物は空間を嫌うよりむしろ愛している。
第13章 世界は死すべき動物であり、あの世はおそらく存在するだろう。
【第二巻】
第1章 言い残している事柄とそれをいかにして述べるべきか。
第2章 物質の感覚について。
第3章 霊魂も感覚も他の形相も、物質の内奥からでなく主動因の力より生ずる、ということ。
第4章 動物の生成と誕生から、霊魂が微薄で熱くて可動性のある精気であって、それゆえ甘受と感覚の適性を備えていることがわかる。
第5章 自然発生とそれによって誕生したものからも同様なことが証明される。
第6章 アリストテレスは愚かにも、霊魂が生まれ肉体が作り出されるのは生成運動の力のゆえだとしていること。
第7章 動物の死と、死以外の受苦からも同様のことが証明される。
第8章 実体のあるものはすべて熱量で動き、可動的で感受力のある霊魂は熱性の精気である。
第9章 同じく精気は聡明で色好みで短気で動きの激しい霊魂である。
第10章 消化と栄養、増加と減少によって精気が霊魂となり、主動因として機能する。
第11章 感覚や表象のさまざまな流儀はいずれの事物でも同一であると立証されている。
第12章 あらゆる感覚は可触的であるが、感覚器官とその器官の感覚の方法は異なる。
第13章 アリストテレスの説に反して、骨も毛も神経も血も精気もみな感覚する。
第14章 感覚と体感に関するアリストテレス主義者の位置。
第15章 可動な感覚など存在せず純粋で非物質的な能力のある感覚もなくて、受容力のある実体が存在する、とアリストテレスがいうのとは違って、わずかな動きときっかけで感覚し得ないものの、文字通り完璧な形成のためには感覚は機能し得る。
第16章 アリストテレスのいうように、もし感覚が不可分の非物質的で受動的な可能態だったら、一度しか感覚できないし、多数のものどもを知覚できないが、見た目に正反対にも映ろうが、微細な物質のこれすべてが役に立つ。
第17章 各感覚器官には、それぞれ異種の主導的な可動態がなくて、同一の物質的な精気が対象物を感覚し授与する。というのも精気が至る所わたり歩き、それは同じく感覚を持つからで、べつの共通感覚ゆえにアリストテレスに満足せず、役に立たない。
第18章 霊魂は肉体を形成するのではなく、とうぜん人間の精神を統べる。
第19章 アリストテレス主義者の見解によると、目にみえない霊魂によって多くの生気、諸々の部位の能力が作られる。
第20章 記憶力は感覚を持つ精気の中にあり、同じことを感覚し思い出す。
第21章 感受性と記憶力のある霊魂は、想像力に富んで饒舌である。
第22章 感受性も判断力もある霊魂は、これより抽象的かつ不死なる知性が証明され、それはアリストテレス主義者に反駁する多くの材料のうちの一つとなる。
第23章 動物には感覚や記憶力、鋭敏な洞察力や判断力はあるが、人間の持つ合理的精神はない。
第24章 人間の霊魂に関する多種多様な見解。
第25章 人間の、不死性と神性について。
第26章 万物は第一原因である神の道具としてあり、そのように機能する。至上善は永遠なる存在で、各実体がそれなりの方法で熱望し近づこうとしている存在である。
第27章 自然という創造主を模倣することによって、人間は至上善と折り合いがつく。
第28章 人間の霊魂に関わるピュタゴラス学派やその他の論客への回答。
第29章 人間を不滅であると示す諸作品についての回答と結論。
第30章 真の認知感覚、衰弱した記憶力、奇妙な論証、過日の知性、それに人間精神、これらはみな精気を共有している。つまり精気は不滅の形相であるので、いかなる議論もこの教説には反駁できない。
第31章 精神面での忘却、欺瞞、精神的受苦、そして観相、悪徳、美徳について。
第32章 世界霊魂が存在するとして、それはなぜか。
【第三巻】
第1章 天上界と星辰は火のようで感受性がある。
第2章 天上界と星辰は、固有の感知力と自己保存による規則的・不規則的運動を共有し、かつ分有している。
第3章 天上界は固有の力で動き、星辰は天上界の内を自力で運動し、その動力源はおそらく天使の精神であろう。
第4章 星辰の感覚と星の住民について。なぜ人間の目には彼らがみえないのか。
第5章 光、火、闇、冷、大地の感覚について。
第6章 空気と動物精気に似た風の感覚について。
第7章 空気は共通精気であり、動物内に潜む特定精気の間で認識力をもたらす。
第8章 動物にとって必要な預言から、また人間から人間へと私たちの神性がわかる。
第9章 空気は現在と未来の事物を形成し、夢でそれらを人間に伝える。そしてそれをいかにして私たちは感覚するか。
第10章 純粋かつ不純な黒胆汁の狡猾さ、それに空気の悪霊性と是認について。
第11章 精気の中での自然の預言、人間精神の中でなされる超自然性。そしてアリストテレスとガレノスはこの二つを不幸にも混同している。またシビュラと巫女たちについて。
第12章 水と酒はすべて感覚を持つ。両者の共感と反感。
第13章 石と金属の感覚、両者の共感と反感について。
第14章 植物の感覚、植物間での共感と反感、植物とその他の事物との共感と反感について。
【第四巻】
第1章 魔術一般とその分類。
第2章 超自然魔術は創造主との友愛にあり、神の側からの友情がなければ、被造物への命令も下せず、奇蹟も生じない。
第3章 神の友愛がなくて成された奇蹟は真の奇蹟ではなくて、魔術的性質のものである。あるいは悪霊魔術が意図せずに用いられた秘術である。
第4章 定住地を持たない者の奇蹟は秘術に長けた戯れであるが、その大部分に叡智が宿っている。つまり表層的な奇蹟と真の奇蹟には違いがある。
第5章 すべての学知と技芸は自然魔術の下にあり、一部の知と業がいっそう大切である。
第6章 自然を慈しむ気持ちが魔術師を動かして効果を生み出す。
第7章 森羅万象の生命を、長くも短くもする自然魔術。
第8章 死体には感覚がある。
第9章 傷んだ実体にはそれ以前の感覚と新たな感覚が宿っていて、魔術で驚異的な奇蹟が証明される。
第10章 感覚者の遠くに感覚が残るのみならず、一旦潰えても再び拡散するが、それはプーリア地方の毒グモや狂犬病に罹ったイヌの咬み傷に明らかで、これまで誰にも理解されていなかった隠された偉大な魔術が発見される。
第11章 ハンセン病についての法からモーセは、感覚と情感が異質でかけ離れた事物間でも交流し増大して、共感が立証される、と指摘している。
第12章 感情移入と変化を見出す普遍的諸法則。
第13章 動物、植物、それに鉱物を、魔術的に利用するに適する諸規則。
第14章 目から変化させる力が、能動的な合意のために生じる。
第15章 自然を利用しながら、多種多様なみせかけや幻視が、視覚の技芸や秘術を行なう。
第16章 音と言葉は動きと徴の点で、魔術的で驚異的かつ確実な力を持つ。
第17章 言葉は不在者や儀式や妖術である種の威力を持つか、悪霊が介入して騙す場合が多い。
第18章 生殖の魔術。
第19章 優れた魔術師には占星術が必要なことと、その力。
宇宙の感覚についてのエピローグ。
訳者解説
人名索引