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  4. 『究竟一乗宝性論』と東アジア仏教

クキョウイチジョウホウショウロントヒガシアジアブッキョウ

『究竟一乗宝性論』と東アジア仏教

五‐七世紀の如来蔵・真如・種姓説の研究  

李子捷

発売日 2020/02

判型 A5判   ISBN 978-4-336-06454-7

ページ数 673 頁   Cコード 3015

定価 14,300円 (本体価格13,000円)

内容紹介

 勒那摩提訳『究竟一乗宝性論』を主要な柱とし、漢訳『宝性論』とその影響を受けた文献に見える「如来蔵」「真如」「種姓」という重要概念を検討することにより、五世紀から七世紀までの東アジア仏教における如来蔵思想の受容と展開を解明した労作。
 第一章では、漢訳『宝性論』の思想的背景を明らかにするため、南北朝仏教における『菩薩地持経』の受容と、曇無讖訳『涅槃経』の仏性と種性をめぐる問題点を取り上げ、それが漢訳『宝性論』に与えた影響を検討する。また、漢訳『宝性論』に対する人性論の影響を探るため、皇侃『論語義疏』を取り上げる。最後に、『地持経』と『宝性論』が漢訳されて以降の北朝仏教における如来蔵思想の受容と展開を解明する準備作業として、『勝鬘経』の注釈書である敦煌写本S.6388とS.2660を検討する。
 第二章では、『楞伽経』の受容について考察する。菩提流支訳『入楞伽経』は『宝性論』とほぼ同時に漢訳されており、『入楞伽経』とその影響を検討することで漢訳『宝性論』受容の解明に役立つと思われる。『楞伽経』は地論学派と摂論学派の如来蔵説と心識説に影響を与えており、特に求那跋陀羅訳と菩提流支訳は中国仏教思想史への影響力を持つ。
 第三章では、梵文との対照を通じて漢訳『宝性論』の翻訳事情について検討し、同時代の如来蔵・真如・種姓説を調査する。
 第四章では、漢訳『宝性論』が南北朝隋唐の中国仏教に与えた影響と重要性を明らかにする。『宝性論』には漢文の注釈書がほとんど残されていないため、重要視されていなかったという見解が学界の主流である。しかし、真諦訳書は『宝性論』、特にその梵文の内容を縦横に利用している。また、『宝性論』は『大乗起信論』にも影響を与えており、吉蔵、法蔵、三階教は『宝性論』とその影響を受けて成立した『仏性論』を依用していることが明らかになる。
 第五章では、中国南北朝期における転依と真如について考察する。「真如所縁縁種子」と「真如智」をめぐって南北朝から唐初期にかけての真如説を窺い、敦煌出土の地論・摂論章疏によって地論学派と摂論学派の真如説の一側面を考察する。
 第六章では、まず新羅元暁の著作における『宝性論』の依用と解釈に絞り、種姓説を検討する。次に、南北朝・隋唐仏教の影響を強く受けた奈良朝仏教をとりあげ、東大寺寿霊『五教章指事』と興福寺智憬『起信唯識同異章』における『宝性論』の依用について検討する。
 本書を通じて、『究竟一乗宝性論』の東アジア仏教における想像以上の影響力がここに明らかとなる。

著者紹介

李子捷 (リシショウ)

1987年7月、中国陝西省西安市碑林区生まれ。
2018年3月、東京駒澤大学大学院人文科学研究科仏教学専攻博士課程修了。博士(仏教学)。
2018年度日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員(PD)として、京都大学人文科学研究所にて博士研究員。
2020年度よりRobert H. N. Ho Family Foundation奨学生として、英国ロンドン大学SOASにてPostdoctoral Fellowの予定。
現在、駒澤大学仏教学部非常勤講師、仏教文学研究所研究員。
主な論文に、“The theory of tathatā (zhenru 真如) in the Ratnagotravibhāga—With focus on interpretation in East Asian Buddhism,” (『佛教中國化與佛典詮釋研究』Vol. 1, 2019),「净影寺慧远与《菩萨地持经》」(『东亚佛学评论』创刊号第一卷、中央民族大学东亚佛教研究中心、2018年), 「『大乗止観法門』に見える真如・如来蔵説——『究竟一乗宝性論』との関連性を中心として」(『花野充道博士古稀記念論文集』2020年刊行予定)など多数。

目次

  はしがき
 序 論
  一 研究史における本研究の位置づけ
  二 思想史的研究
  三 文献学的研究
  四 問題の所在
  五 本論の概要
  六 先行研究との関連および論文の意義
第一章 漢訳『究竟一乗宝性論』の背景としての五世紀の南北朝仏教
 第一節 『宝性論』における『菩薩地持経』の影響
 第二節 『地持経』と浄影寺慧遠
 第三節 『地持経』と南北朝隋唐仏教
 第四節 曇無讖訳『大般涅槃経』の仏性と種性
 第五節 皇侃『論語義疏』の人性論と「種性」
 第六節 敦煌写本『勝鬘経』注釈書に見られる二乗成仏と如来蔵説
        ――S.6388とS.2660を中心に
第二章 『宝性論』の同時代的視座としての『入楞伽経』
 第一節 菩提流支訳『入楞伽経』に見える真如・如来蔵説
 第二節 現存最古の『入楞伽経』注釈書と思われる
        杏雨書屋所蔵敦煌写本『入楞伽経疏』(擬題、羽726R)について
 第三節 『瑜伽論記』に見られる『楞伽経』引用の一考察
 第四節 日本唯識文献に見える『楞伽経』の引用
        ――地論・摂論学派を中心とした『楞伽経』の受容について
第三章 『宝性論』の梵漢対照研究から見た如来蔵・真如・種姓説
 第一節 『宝性論』の漢訳と勒那摩提(Ratnamati)
 第二節 漢訳『宝性論』の“gotra(種姓)”の翻訳問題について
 第三節 『宝性論』の真如説――東アジア仏教における真如理解との関連を中心に
第四章 『宝性論』訳出後の影響
 第一節 『大乗起信論』の真如説――『宝性論』の如来蔵説との関係を中心として
 第二節 『大乗起信論』の如来蔵思想の再検討――真如との関係を中心として
 第三節 真諦訳とされる『仏性論』における「仏性」
        ――『地持経』・『宝性論』・『摂論釈』との関連を中心に
 第四節 真諦訳とされる『仏性論』における「真如」と「信楽」
        ――『解節経』と『無上依経』との関連を中心に
 第五節 真諦訳『金光明経』「三身分別品」と漢訳『宝性論』――その仏身論について
 第六節 杏雨書屋所蔵敦煌写本羽333V『起信論疏』と『宝性論』・『仏性論』
 第七節 嘉祥吉蔵における真如と仏性――『宝性論』・『仏性論』の依用を手掛かりに
 第八節 三階教における如来蔵説
        ――『仏性観修善法』・『仏性観』と『宝性論』を中心に
 第九節 玄奘帰朝以前の中国仏教における種姓(性)説について
        ――『地持経』・『菩薩瓔珞本業経』・『宝性論』を中心に
 第十節 法蔵の真如・種姓説――『宝性論』と『地持経』の位置づけ
第五章 七世紀以前の中国仏教における真如説
 第一節 南北朝隋唐仏教の二種真如説
 第二節 敦煌出土の地論・摂論章疏に見える真如説
 第三節 転依(parivṛtti)と真如(tathatā)
        ――南北朝仏教における『宝性論』・『楞伽経』を中心に
第六章 朝鮮・日本仏教における真如・種姓説
 第一節 新羅元暁と『究竟一乗宝性論』
 第二節 奈良朝の日本仏教における真如・種姓説
        ――寿霊『五教章指事』・智憬『起信唯識同異章』と『宝性論』

 結 論

  参考文献
  初出一覧
  索引
  英・中・韓要旨

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