テイタイノテイコク
停滞の帝国
近代西洋における中国像の変遷
発売日 2011/10/20
判型 A5判 ISBN 978-4-336-05440-1
ページ数 756 頁 Cコード 0022
定価 7,480円 (本体価格6,800円)
近代西洋において、中国はいかに記述されてきたか――。マカートニー使節団、イエズス会、ライプニッツ、ヴォルテール、モンテスキュー、リンネ、アダム・スミス、ヘーゲル、ダーウィン、ニーチェ、ヴェーバー、ウィットフォーゲル……。文化史、思想史、自然科学史を横断し、近代西洋における中国像の変容の意味を探るとともに、近代西洋に特有の思考構造を明らかにする。オリエンタリズム研究の新たな可能性を示す大著。
大野英二郎 (オオノエイジロウ)
1953年東京生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。パリ第8大学博士課程修了。第3課程博士。現在、フェリス女学院大学国際交流学部教授。専攻は近代フランス文学・思想。訳書にフンボルト『新大陸赤道地方紀行 上・中・下』(共訳、岩波書店)など。
序章 マカートニー使節団
マカートニー使節団/アンダーソンの手記/ストーントンの記録/バローの記録/マカートニーの日記/バローの衝撃
第1部 中国の登場――18世紀初頭まで
第1章 中国の登場
中国と地理的想像力/異界としての極東――マンデヴィル/中国の発見/中国報告の開始――クルス/中国への関心――メンドーサ/イエズス会の宣教方法/驚異としての中国/キリスト教の痕跡/儒教の位置づけ/中国史と聖書/中国史の衝撃――マルティニ/中国文明の欠点 中国の原像――ル・コント/中国礼賛――ライプニッツ/中国礼賛への反論――ルノド/世俗的人間の証言/二種類の証言、二種類の言説
第2章 世界観への組み込み
ヨーロッパ意識の危機/聖書の読み直し――ラ・ペレール/無神論者の徳――ベール/新旧論争――ペロー、フォントネル/進歩の観念と中国/中国思想の不変性――マルブランシュ/普遍史の模索――ボッスエ/中国人バビロン起源説――フェヌロン/中国人エジプト起源説――ユエ、ド・メラン/ロビンソン・クルーソーの視点
第2部 神話の形成――18世紀
第1章 中国の流行
中国の世紀/中国礼賛の戦略――ヴォルテール/中国の不変性――『シナの孤児』/批判装置としての中国――モンテスキュー/聖像破壊――アンソンの『世界周航記』/東洋的専制主義――ブーランジェ、エルヴェシウス/重農主義者の視点――ケネーなど 重農主義者への反論――マブリー/トポスとしてのシナ
第2章 世界の中の中国
聖書への疑問――ラングレ=デュフレノワ/新しい普遍史――テュルゴ/停滞する中国――レイナル/世界史概念の変化――カント/反啓蒙主義――ヘルダー/ヨーロッパ中心主義的偏見――ド・ポー/進歩に対する確信――コンドルセ
第3章 博物学から人類学へ
博物学の中の中国人――リンネ/人種概念の成立――ビュフォン/世界の多様性――カント、ド・ブロス 顔面角――カンペル/身体人類学――ブルーメンバッハ/人種の階梯――ホワイト
第4章 ヨーロッパの変容
ヨーロッパの変化/人類発展段階説――ケームズ/イギリスの変化――アダム・スミス/繁栄と没落――ファーガソン/産業の発展と自由――ミラー/イギリスの急進主義と中国――プリーストリ、ゴドウィン/終末の予言――マルサス/オリエントの復権――アンクティル=デュペロン/中国の褪色
第3部 停滞の神話――19世紀前半
第1章 19世紀中葉までの中国観察
神話の定着/アマースト使節団/軍事的関心――ロシア人の観察/アヘン戦争まで/プロテスタント宣教師の視点――メドハースト/アジアの中の中国――ウィリアムズなど/骨董的世界から猥雑な混沌へ/中国学の確立
第2章 思想の中の中国
世界観の変化と中国/フランス革命の余波――コンスタン/『人口論』をめぐる応酬――マルサスとゴドウィン/産業革命の普及――セイ/世界史と中国――ヘーゲル/インドとの対比――フリードリッヒ・フォン・シュレーゲル、クザン/社会発展と中国――コント/反動思想の中の中国――ボナルド/アジアの中の中国――ジョーンズ、リスト/自由主義思想と中国――トクヴィル
第3章 人種論と中国人
近代的人類学の形成/人種分類の中の中国人/独立種としての人種
第4部 神話の変容――19世紀後半
第1章 中国の混迷
動乱の連続/変化する中国――ユック/ヨーロッパの変貌と中国の停滞/太平天国の影響――メドウズ/中国の将来――ミチー/太平天国への共感――リンドレー/中国人の流入――白人至上主義の表裏/好奇と同情――トウェイン
第2章 不変性から後進性へ
変化の予感――コントのその後/自由主義理論の暗部――ジョン・ステュアート・ミル/アジア的生産様式――マルクス 進歩史観の否定――ランケ 民族論と人種論――ルナン 人種不平等論の唱道――ゴビノー/優生学の視点――ダーウィン/社会進化論――スペンサー/優生学理論と中国人――ゴルトン、ヴァシェ=ド=ラプージュ/潜在的脅威としての中国――ピアソン、ル=ボン/アーリア人の神話――チェンバレン
第3章 変化の胎動
中国の進歩――ウィリアムズ再版/中国人論――アーサー・スミス/女性たちの報告/変化の実感――コフーン/40年後の中国再論――ミチー/黄禍論――興隆する日本の影響/頽廃の果て――ノルダウ
第4章 トポスとしての中国
中国像の変容/異国趣味――ジュディト・ゴーティエ/愚民としての中国人――『パンチ』誌/植民地主義と冒険小説/中国人の非人間性――ミルボー、コンラッド/義和団の乱と文学――黄禍論と大衆文学/悪役としての中国人/白人の責務――キプリング
終章 西洋の黄昏、中国の黎明
決定的変化の生起/西洋文明批判――ニーチェ/近代への懐疑――ヴェーバー/帝国主義批判――ホブソン/中国革命への対応/西洋の没落――シュペングラー/中国の近代化――孫文 懐古的視線――セガレン/異国情緒の残照――プッチーニ/歴史の流れと中国人――バック、マルロー/新生中国の苦闘――スメドレー/『中国の赤い星』――スノー/単線的世界観への疑義――ウィットフォーゲル/新たな中国像を求めて
注
あとがき
参考文献一覧
人名索引
図像一覧