特集
新シリーズ《奇想天外の本棚》刊行開始!
2022/08/19
《奇想天外の本棚》
"KITEN BOOKS"
【第1期・全12巻】
製作総指揮=山口雅也
噂には聞くものの、様々な理由で、読書通人でも読んでいる人が少ない
「都市伝説的」作品の数々――
ミステリ、SF、ホラーから普通文学、戯曲までを紹介する、
読書通人にとっての《理想郷》ともいうべきシリーズ、刊行開始‼
【四六判・並製ジャケット装・平均300ページ】
平均本体予価2400円
装訂=坂野公一(welle design)
山口雅也
ようこそ、わたしの奇想天外の書斎へ。ここは――三方の書棚に万巻の稀覯本が揃い、暖炉が赤々と燃え、読書用の安楽椅子が据えられているという――まさに、あなたのような読書通人にとって《理想郷》のような部屋なのです。
――そうです、三冊で途絶した《奇想天外の本棚》を、生死不明のまま待っていてくれた読者の皆さん、どうか卒倒しないでください。私の執念と新たな版元として名乗りを上げた国書刊行会の誠意ある助力によって、かの名探偵ホームズのように三年ぶりに読書界に《奇想天外の本棚》が生還を果たしたのです。
甦った《奇想天外の本棚》(KITEN BOOKS)は、従来通り読書通人のための叢書というコンセプトを継承します。これからわたしは、読書通人のための「都市伝説的」作品――噂には聞くが、様々な理由で、通人でも読んでいる人が少ない作品、あるいは本邦未紹介作品の数々をご紹介します。ジャンルについても、ミステリ、SF、ホラーから普通文学、戯曲まで――をご紹介してゆくつもりです。つまり、ジャンル・形式の垣根などどうでもいい、奇想天外な話ならなんでも出す――ということです。
では、《奇想天外の本棚》第1期12冊個々についてご紹介しますが、時節柄刊行記念イヴェントもできない昨今でありますので、トーク・ショウのような気分でカジュアルな本音トーク(一部、私情の入った伝法な口調、ご理解ください)をお聞き願いたいと思います。尚、以下の配本順不同、邦題は仮題となります。
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◆9月20日刊行◆
【1】『九人の偽聖者の密室』
Nine Times Nine by
H. H. Holmes
オカルトがらみの密室殺人の謎に直面した捜査陣は、「密室派の巨匠」ジョン・ディクスン・カーが書いた《密室講義》を参照しながら推理・検討をするのだが、なんと《密室講義》のどの分類にも当て嵌まらないことが判明する。困惑する捜査陣を前に、難事件の経緯を知った尼僧アーシュラは、真相究明のために静かに祈りを捧げるのだった......。果たして異色の尼僧探偵の祈りが通じ、神をも畏れぬ密室犯罪の真相が看破されるのだろうか⁉ 世界のミステリ通人が集うGolden Age Detection のメンバーでも、作者の深い企みは見抜けなかったという「読者よ欺かるるなかれ」的作品。読む者の見識が試される密室犯罪試金石なり。
【2】『Gストリング殺人事件』
(ジプシー・ローズ・リー/柿沼瑛子訳)
The G-String Murders by
Gypsy Rose Lee
伝説のストリッパー、ジプシー・ローズ・リーが書いた探偵小説。数年前もツイッタ―で取り沙汰されていた話題作。ファンの間ではクレイグ・ライス代作説が根強いが、今回は新進気鋭の評論家酔眼俊一郎氏が懇切な前説で真相を究明。この解説を読むだけでもミステリ・ファンはMUSTの一冊ですね。
【3】『死体狂躁曲』
(パミラ・ブランチ/小林晋訳)
The Wooden Overcoat by
Pamela Branch
クリスチアナ・ブランドの親友ブランチが書いた、《死体を持て余してうろたえサスペンス》、即ちブラック・ユーモア・タッチのミステリ。『20世紀ミステリ&クライム作家事典』(第一版)にも記載のない海外の専門家もノーマークの作家だったが、熱心なファンの支持もあって、近年、全作復刊、再評価の機運も。《奇想天外の本棚》は、こういう作家を見逃しません。
【4】『プライアブルの脅威、その他の脅威』
(ダニエル・F・ガロイ/尾之上浩司訳)
The Pliable / Tonight the Sky Will Fall / The
Day the Sun Died by Daniel F. Galouye
《恐怖の火星探検》など、いったい、いくつあるんだよ、という映画《エイリアン》の元ネタ候補の一つが表題中編の『プライアブル』、私は映画公開の前に『SFマガジン』でガロイの『プライアブル』を読んでいたので、元ネタはこっちだろと思い込んでいた。当時の『SFマガジン』の編集長福島正実をして、SFミステリというならこれくらいのものを書いてほしいと言わしめた名作なのだが、雑誌掲載のみで知る人ぞ知る作品となってしまった。そういう不遇作なら、《奇想天外の本棚》に任せてほしい。ガロイの中編三本立て興行、まとめて公開しますよ!
【5】『最後にトリヴァー氏は』
(ウィリアム・ウィーガンド/宮脇孝雄訳)
At Last, Mr. Tolliver by
William Wiegand
むかし英国のミステリ作家サザランド・スコットがBlood in Their Inkという、かなりユニークな視点の評論書を出しておりまして、その中のユニークなミステリ分類(詳細はネタバレになるので言えません)の好個の例として取り上げていた。だがしかし! その後、翻訳紹介されることもなく、幾星霜......その間、英文資料の「エラリイ・クイーンとロス・マクドナルドの中間を行く」という評価を知って、ますます読みたくなってしまった。――そうです、誰も出さないなら、読みたいと思ったわたしが出しましょう、というのが本叢書の企図なのです。
【6】『五つの箱の死』
(カーター・ディクスン/白須清美訳)
Death in Five Boxes by
Carter Dickson
言わずと知れた密室派の巨匠、ジョン・ディクスン・カーの不可能犯罪以外にもいいのがありますよ、という好個の例。わたしは本作のクライム・シーンにおける不可解な演出が大好きなのだが、フーダニットとしても、究極の離れ業を見せてくれている。こんな技を繰り出してきた例は、日本の誇る本格派の驍将のアノ先生ぐらいかも。カーは未訳の『棺桶島』も第二期で出します。お楽しみに!
【7】『恐ろしく奇妙な夜』短編集
(ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ/夏来健次訳)
Night of Horror and Other Stories by
Joel Townsley Rogers
頭がいい(ハーヴァード大卒)んだか、悪いんだか、ユニークな文体なのか、単に下手なのかよくわからない作家J・T・ロジャーズ。だが、世間がバカミスと嗤っても、わたしは支持するぞ、この作家を。他の不見識な出版社が断るような企画こそ上等、わたしの叢書で出しますから!
【8】『濃霧は危険』
(クリスチアナ・ブランド/宮脇裕子訳)
Danger Unlimited (英版タイトルWelcome to Danger) by Christianna Brand
これもわたしの愛する作家、クリスチアナ・ブランドが書いた未訳のジュヴナイル。いい探偵作家は、大方、いいジュヴナイルも残していますね。やはりいい作家は童心を忘れないということでしょう。尚、本作は名作『ジョゼベルの死』と同年発表ということで、期待感が大いに高まりますね。
【9】『九番目の招待客』
(オーエン・ディヴィス/白須清美訳)
The 9th Guest by Owen
Davis
わたしの持っている稀覯本中の稀覯本を放出。以前この本をトーク・ショウでアナウンスした時、その場にいた日本の評論家をして「ミステリ史を書き換える」とまで言わしめた戯曲。そうなんです、本作はアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』の元ネタとなった作品なのです。作者は演劇界の重鎮として知られる人なのだが、ファースト・ネームのオーエンにご注目! 『そして誰もいなくなった』の謎の招待主の名前がU・N・オーエンだったでしょ? これはクリスティーからのオマージュ・メッセージなのではないかと。尚、元ネタ説についてはややこしい話があるので、酔眼俊一郎氏に書いてもらうことにしました。
【10】『フランケンシュタインの工場』
(エドワード・D・ホック/尾之上浩司訳)
The Frankenstein Factory by
Edward D. Hoch
短編の名手エドワード・D・ホックの長編シリーズ《コンピュータ検察局》の最終作。その素晴らしいタイトルから日本でも識者の間で翻訳が待ち望まれていたのだが、一向に訳出される気配がない。さらに、驚くことに、Amazon USAのレイティングが☆一つという低評価なのを発見! あの職人作家ホックが☆一つとは......そんな訳ねーだろと、義憤(わたしの物書きデビューはホック論、追悼文も書いています)に駆られたわたしとしては、意地でも本叢書に入れようと考えた次第。
【11】『誰?』
(アルジス・バドリス/柿沼瑛子訳)
Who? by Algis Budrys
ヒューゴー賞をハインラインと争って一票差で敗れ、その一票が賞を争ったバドリス自身が投じたものだったという爆笑逸話を聞いた覚えがある、不運なんだか、単にいい人なんだか判断に困る作家バドリス。同じくヒューゴー賞落選の『無頼の月』も、早くから日本の通人たち(鏡明、殊能将之両氏)に評価されていたのだが、短縮版が雑誌連載されたきりで単行本にならなかった不遇の作家バドリス。そうした作家こそ本叢書は大歓迎! 尚、本作は冷戦下のスパイ・スリラーの趣もあるSFミステリで、映画化もされている (国内未ソフト化) のだが、不適切な邦題の旧訳は評判にならず。よって本叢書では原題に戻し新訳で再度世に問います。
【12】『吸血鬼ヴァーニー』第1巻
(ジェームズ・マルコム・ライマー&トーマス・ペケット・プレスト/三浦玲子・森沢くみ子訳)
Varney the Vampire by
James Malcolm Rymer, Thomas Peckett
Prest
ヴィクトリア朝期に書かれたゴシック・ホラーの古典。女性の首に嚙みつき血を吸う貴族紳士という吸血鬼の雛形を最初に描いた歴史的重要作である(若い読者はTVドラマ《ペニー・ドレッドフル》でご存知かも)にも関わらず、日本では二世紀に亘って断片的にしか翻訳紹介されてこなかった、ホラー・ファン(老若問わず全員集合!)にとっては、まさに「都市伝説的」一書。そうなったのは百科事典並みの膨大な量だった(全232章、約667000語)こともあるだろう。だがしかし、上記の理由から、これを読まずしてホラーを語るなかれ――ということで、過去に近刊予告を出した国書刊行会としても、版元の矜持をかけて一大翻訳事業に取り組むことになった次第(拍手)。また、今回の新訳のミソは女性の若手翻訳家二名のハイテク秘策による共訳という方式を採用したこと。作中犠牲者として描かれる女性がハイテク翻訳したらどういう吸血鬼像が生まれるのかというのも個人的な興味の焦点。
*タイトル等は変更される場合があります。
■内容見本■
(ダウンロードはこちらから)
《奇想天外の本棚》
第1回配本
2022年9月刊行
『九人の偽聖者の密室』
H・H・ホームズ/白須清美訳
定価:本体2,200円+税
ISBN978-4-336-07401-0
【第2回配本】
『Gストリング殺人事件』
ジプシー・ローズ・リー/柿沼瑛子訳
【第3回配本】
『死体狂躁曲』
パミラ・ブランチ/小林晋訳
*以降順次刊行