書籍詳細


リョウヒザヲケガシタワタシノセイジョ
両膝を怪我したわたしの聖女
- 発売日
- 2025/05/14
- 判型
- 四六判
- ISBN
- 978-4-336-07771-4
- ページ数
- 208頁
定価 3,190円(本体価格2,900円)
内容紹介
決 壊 す る 文 体
――圧倒的な感情がほとばしり、膨れ上がり自壊する言葉の群れが未熟な欲望を覆い尽くす。10歳の少女らを閉じ込めるひどく退屈な夏休み、早熟なふたりの過激で破滅的な友情。
スペイン最南カナリア諸島発、世界18カ国語に翻訳の問題作。
◇ ◇ ◇
スペイン・カナリア諸島に暮らす、10歳の「わたし」と親友イソラ。
せっかくの夏休みは、憂鬱な曇天に覆われていた。薄暗い貧困の地区を抜け出して、陽光のふりそそぐサン・マルコス海岸に出かけたいのに、仕事に追われる大人たちは車を出してやる余裕がない。ふたりの少女は退屈しのぎのため、不潔にして乱暴、猥雑で危うい遊びにつぎつぎ手を染める。
親友というには過激すぎる、共依存的関係性。
「わたし」にとってイソラはまるで聖女のように絶対的な存在だった。イソラが両膝を怪我すれば、舌でその血をなめとった。イソラの飼い犬になりたかった。粗暴な物語に織り込まれた緻密な象徴の数々。子どもらしいイノセンスとは無縁の、深い悲しみに由来する頽廃と陶酔の日々。
イソラと共にある日常は永遠に続くかに思われた。しかし——
◇ ◇ ◇
Andrea Abreu, Panza de burro (2020)
装丁:コバヤシタケシ
装画:さめほし「夜明けの海」
著者紹介
アンドレア・アブレウ (アンドレア・アブレウ)
(Andrea Abreu)作家、詩人。1995年スペイン・カナリア諸島のテネリフェ島北部で生まれる。島内のラ・ラグーナ大学でジャーナリズムを学び、マドリードのレイ・フアン・カルロス大学の修士課程を修了。新聞社のインターンとして働いたものの辞職し、ランジェリーショップの店員の仕事に就く。詩人としての著作に、詩集『まぶたのない女』(2017)、詩誌『血を流す春』(2017)など。同じくテネリフェ島育ちの作家サビーナ・ウラカに師事し、2020年、『両膝を怪我したわたしの聖女』(原題 Panza de burro)により小説家としてデビュー、専業作家となる。危うい年頃の少女の姿を、カナリア方言を駆使した口語調で活写した本作は、発売後3年足らずのうちにスペイン国内だけで6万6000部を販売、18言語に翻訳され、新人作家としては異例のヒットを記録。ドゥルセ・チャコン賞(2021)、シャンベリー・デビュー小説賞(2021)を受賞した。
村岡直子 (ムラオカナオコ)
スペイン語翻訳者、(有)イスパニカ翻訳講座講師、校正者。兵庫県出身、同志社大学文学部卒業。グラナダ大学セントロ・デ・レングアス・モデルナス留学。訳書にピラール・キンタナ『雌犬』(国書刊行会)、マイク・ライトウッド『ぼくを燃やす炎』『ぼくに流れる氷』(サウザンブックス)、フェデリコ・アシャット『ラスト・ウェイ・アウト』(早川書房)、トニ・ヒル『ガラスの虎たち』(小学館)、共訳書にペドロ・バーニョス『地政学の思考法』(講談社)、マリア・ピラール・ケラルト・デル・イエロ『ヴィジュアル版スペイン王家の歴史』(原書房、青砥直子名義)などがある。
五十嵐絢音 (イガラシアヤネ)
東京都出身。神田外語大学外国語学部イベロアメリカ言語学科スペイン語専攻卒業。在学中にスペインカナリア諸島グラン・カナリア島のラスパルマス・デ・グラン・カナリア大学に留学し、カナリア諸島特有のスペイン語に魅了され現地の言語を学ぶ。アンドレア・アブレウ『両膝を怪我したわたしの聖女』原作 Panza de burro を留学時代の恩師から紹介されたことをきっかけに、神田外語大学卒業研究として本書全文を試訳するとともに、小説内で用いられるカナリア諸島特有の表現について調査した。
目次
あんなに大胆で、あんなに怖いもの知らずに
ほんのちびっとだけ
イソラ・カンデラリア・ゴンサレス=エレラ
松葉の下のキノコ
これは雨になりそうだ
クリームを、首にクリームを
タイヤをきしませながら行くメタリックのビマー
ヨソモンは臭い
ウサギを嚙まずに丸ごと食べちゃう
フアニータの叫び声は十字路の向こうまで響いた
イソラを食べてしまう
まだはつ明されてないような愛ぶをしてやるぜ
イソラの足がアスファルトを踏む
猟犬みたいにやせっぽち
こすりつける
両膝を怪我したわたしの聖女
イエス・キリストの小さな顔
その日はキャベツシチューしかなかった
iso_pinki_10@hotmail.com
ペペ・ベナベンテのBGM
クロウタドリの羽みたいに黒い目
エドウィン・リベラ
ジャガイモひとつごとに半キロ
胴体にナイフ
イソラが存在しなかったときみたいに
女に残る最後のもの
わたしたちはこんなふうに夜の蛾のように
ひとりでこする
這い回るトカゲ
広場の上につるした色紙
訳者あとがき