書籍詳細
ジャイナキョウセイテンセン
ジャイナ教聖典選
- 発売日
- 2022/09/16
- 判型
- A5判
- ISBN
- 978-4-336-07391-4
- ページ数
- 572頁
定価 7,700円(本体価格7,000円)
内容紹介
古代インドで仏教と同時期に同地域で誕生し、いまなおインドで続くジャイナ教。初期仏典にも多くの記録が残り、祖師マハーヴィーラは六師外道のひとりニガンタ・ナータプッタとされ、主な教義と死亡記事も伝わる。しかも、ジャイナ教聖典と同一の詩句が仏典中に多く見られ、仏教の教えとして伝わっている。
ジャイナ教徒はインド総人口のわずか0.4%ではあるが、19世紀にはインド民族資本の大部分を占めていたといわれ、マハートマ・ガーンディーの非暴力・菜食主義に影響を与え、南方熊楠はその徹底した不殺生を仏教よりも高く評価した。
本書には、ジャイナ教の二大分派である白衣派の聖典から、【第Ⅰ篇】には古層文献を、【第Ⅱ篇】には出家者と在家者との戒律文献を、【第Ⅲ篇】には初期仏典と共通する伝承から作られたパエーシ王の物語を、【第Ⅳ篇】にはジャイナ教の祖師マハーヴィーラの伝記を収めた。
【第1章】『アーヤーランガ』第一篇は、出家修行者が解脱を達成するために遵守すべき禁欲的な修行生活全般を主題とする。なかでも第九章は、マハーヴィーラ出家後の厳しい苦行生活を古風な韻文で描いた、最古の祖師伝である。
【第2章】には、『スーヤガダンガ』第一篇第四章と第五章第一節を収めた。前者は男性出家者が女性との接触を避けるべきことを教示しており、最初期ジャイナ教のジェンダー観に有意な資料を提供する。後者は最初期ジャイナ教の地獄観を表す資料であり、『スッタニパータ』などの初期仏典、ヒンドゥー教の大叙事詩『マハーバーラタ』や法典『マヌ法典』にも類似した観念が見出され、当時の地獄観の共通認識を知るうえで欠かすことができない。
【第3章】には『ウッタラッジャーヤー』から古層に属する第一章から第二〇章、そして第二五章を収めた。出家者の生活への心構え、説話、伝説、対話篇、修行論、解脱論や業論といった教学的議論など、さまざまな内容で構成され、仏典にも並行する詩句が見出される。
【第4章】『ダサヴェーヤーリヤ』(十夜経)は、基本的な教義や出家生活上の規定をまとめた白衣派の古層をなす聖典であり、現在でも出家の儀式を終えた者が最初に学習する派もある。
【第5章】『ウヴァーサガダサーオー』第一章は、白衣派聖典中、もっともまとまって在家信者の宗教生活を説く章であるとともに、後に数多く著された在家信者向けの行動規範マニュアルの祖型ともなり、ジャイナ教の在家信者観をうかがう上で欠かすことのできない資料である。
【第6章】には、来世を信じず霊魂と身体が同一であると主張するパエーシ王と、ジャイナ教僧ケーシの対話である「パエーシ王物語」(『ラーヤパセーニヤ経』後半部)を収めた。訳注には、これに並行するパーリ仏典と3本の漢訳仏典との対応箇所を記した。
【第7章】には、白衣派ジャイナ教在家者にもっともよく知られる『ジナチャリヤ』(ジナたちの伝記)からマハーヴィーラ伝を収録した。
【第8章】『ヴィヤーハパンナッティ』第九篇第三三章「クンダッガーマ」を収めた。前章においてマハーヴィーラは最初にバラモン族の夫人の胎に宿り、胎児のままクシャトリア族の夫人の胎に移った。本章前半では、最初の母であるバラモン族の夫人と夫がマハーヴィーラと再会し、出家して解脱するまでが描かれる。後半部では、最初の教団分裂を引き起こしたジャマーリの出家から死までが記され、仏典におけるデーヴァダッタの破僧事件を彷彿とさせる。
アルダマーガディー語原典から訳出された本書により、マハーヴィーラ在世時の姿が、ここに蘇る。
著者紹介
河﨑豊 (カワサキユタカ)
1975年生。東京大学附属図書館アジア研究図書館研究開発部門助教。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
主な業績:『ブッダゴーサの著作に至るパーリ文献の五位七十五法対応語』(共著、山喜房佛書林、2014)、『原始仏典Ⅲ 増支部経典第六巻』(共訳、春秋社、2019)、“New and Rare Words” Collected by Helen M. Johnson from Hemacandra’s Triṣaṣṭiśalākāpuruṣacaritra (共編著、東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門、2022) ほか。
藤永伸 (フジナガシン)
1956年生。京都光華女子大学特別研究員。広島大学大学院文学研究科博士課程後期満期退学。博士(文学)。
主な業績:『ジャイナ教の一切知者論』(平楽寺書店、2001)、“Six Dravyas,” in Brill’s Encyclopedia of Jainism. Leiden/ Boston, 2020. “New and Rare Words” Collected by Helen M. Johnson from Hemacandra’s Triṣaṣṭiśalākāpuruṣacaritra (共編著、東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門、2022)ほか.
上田真啓 (ウエダマサヒロ)
1980年生。立命館大学非常勤講師。京都大学大学院文学研究科博士後期課程指導認定退学。修士(文学)。
主な業績:『ジャイナ教とは何か 菜食・托鉢・断食の生命観』(風響社、2017)、「ゴーサーラ伝——Vyāhapaṇṇatti第15章和訳(1)」(共訳、『仏教文化研究論集』第20号、東京大学仏教青年会、2020)、「Vyavahārasūtraの注釈文献研究」(『ジャイナ教研究』第27号、ジャイナ教研究会、2021)ほか。
藤本有美 (フジモトユミ)
1977年生。宮城県公立高等学校社会科教諭。東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。プネー大学大学院修了(Ph.D. in Prākrit)。
主な業績:「Vyavahārabhāṣya第一章に見られる住処での生活規定について」(『論集』第44号、印度学宗教学会、2017)、「Bhāṣya文献における追放(pāraṃciya)の規定について」(『ジャイナ教研究』第24号、ジャイナ教研究会、2018)ほか。
堀田和義 (ホッタカズヨシ)
1977年生。岡山理科大学教育推進機構基盤教育センター准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(文学)。
主な業績:『よくわかる宗教学』(共著、ミネルヴァ書房、2015)、「ゴーサーラ伝——Viyāhapaṇṇatti第15章和訳(1)」(共訳、『仏教文化研究論集』第20号、東京大学仏教青年会、2020)、“New and Rare Words” Collected by Helen M. Johnson from Hemacandra’s Triṣaṣṭiśalākāpuruṣacaritra (共編著、東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門、2022) ほか。
八木綾子 (ヤギアヤコ)
1978年生。京都大学非常勤講師。京都大学文学研究科博士後期課程指導認定退学。博士(文学)。
主な業績:「AMg Apaḍinnaの意味について」(『ジャイナ教研究』第14号、ジャイナ教研究会、2008)、‘A Sketch of the Life of Terāpanthi Nuns: A Jain Śvetāmbara Sect in Lāḍnūn.’ (『ジャイナ教研究』第19号、ジャイナ教研究会、2013), ‘Meaning of AMg. allīṇa and pallīṇa.’ in Jaina Studies: Select Papers presented in the ‘Jaina Studies’ Section at the 16th World Sanskrit Conference, Bangkok, Thailand & the 14th World Sanskrit Conference, Kyoto Japan. Ed. by Nalini Balbir and Peter Flügel. New Delhi: DK Publishers Distributors, 2018ほか.
山崎守一 (ヤマザキモリイチ)
1948年生。中央学術研究所顧問。東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了。文学博士。
主な業績:A Pāda Index and Reverse Pāda Index to Early Jain Canons: Āyāraṅga, Sūyagaḍa, Uttarajjhāyā, Dasaveyāliya and Isibhāsiyāiṃ, Tokyo: Kosei Publishing Company, 1995(共編), 『沙門ブッダの成立——原始仏教とジャイナ教の間』(大蔵出版、2010)、『古代インド沙門の研究——最古層韻文文献の読解』(大蔵出版、2018)ほか。
目次
解説
第I篇 最古の様相
第1章『アーヤーランガ』第一篇
第2章『スーヤガダンガ』第一篇(抄)
第3章『ウッタラッジャーヤー』(抄)
第II篇 出家者の生活規定と在家者の宗教生活
第4章『ダサヴェーヤーリヤ』
第5章『ウヴァーサガダサーオー』第一章
第III篇 仏典との類似経典
第6章『ラーヤパセーニヤ経』(抄)――パエーシ王物語
第IV篇 祖師マハーヴィーラの生涯
第7章『ジナチャリヤ』(抄)――誕生から入滅まで
第8章『ヴィヤーハパンナッティ』第九篇第三三章
――最初の母との邂逅と教団の分裂
訳注
解題