ディテクティヴノヴェルノコウコガク

「探偵小説」の考古学

セレンディップの三人の王子たちからシャーロック・ホームズまで  

レジス・メサック 著
石橋正孝 監訳
池田潤/佐々木匠/白鳥光/槙野佳奈子/山本佳生 訳

発売日 2021/07/16

判型 A5判   ISBN 978-4-336-07090-6

ページ数 804 頁   Cコード 0098

定価 9,680円 (本体価格8,800円)

【内容紹介】

近代性そのものとも言うべき「探偵小説」は、どこに起源を持ち、どのような紆余曲折を経て、ジャンルとしての結晶を見るに至ったのか? 古代に始まる膨大な文献を博捜し、通常の推理小説論では見られないような人名をも援用しつつ描かれる、その成り立ちの歴史。江戸川乱歩が熱いまなざしをそそぎ、ヴァルター・ベンヤミンが激しい関心を向けその『パサージュ論』で引用を繰り返した伝説的大著。

■江戸川乱歩
この最後のもの〔フォスカ著『探偵小説の歴史と技巧』〕は訳書のゲラ刷りを一読して序文を書いた関係から、私はそこに屢々引用されている同じフランスのレジ・メサックの大著「科学思想の影響と探偵小説」に興味を感じ、フランス語が読めもしないのに、当時もう戦争のために輸入がむずかしくなっていたのを、アテネ・フランセを通じてやっと同書を取寄せて貰ったことを思出す。この本は大判七百頁余の大冊で探偵文学の歴史をギリシア、ローマの昔より説き起して最近の諸傾向に及び、博引旁証、その視野の広さ、その態度の学究的真摯、その量の厖大遙かに類書を抜くものであった。

[目次より]
第一部 フィラーサの秘法
  第一章 セレンディップの王子たちの旅と冒険
  第二章 アテナイへの道の途中
  第三章 アルキメデスの冠
  第四章 奇跡と現実
  第五章 奇跡と文学
  第六章 明敏な王子たちの帰還
第二部 幽霊と盗賊
  第一章 密偵たちの章
  第二章 ボーマルシェの陽気な話
  第三章 見霊者
  第四章 ユードルフォの謎
  第五章 ケイレブ・ウィリアムズ
  第六章 ヴィーラントから『ウィーランド』へ
第三部 観相学的な旅
  第一章 照応
  第二章 開拓者たち
  第三章 暗黒事件
  第四章 徒刑場のフィガロ
  第五章 ヴィドックとヴォートラン
第四部 モルグ街の謎
  第一章 ブラックウッド誌風の作品の書き方
  第二章 ケイレブ・ウィリアムズの遺産
  第三章 自然魔術
  第四章 デュパンからカンパネッラまで
第五部 現代の千夜一夜物語
  第一章 次号に続く
  第二章 悪の道の辿りつく先
  第三章 パリのモヒカン族
  第四章 ヴォートランの継承者たち
  第五章 ロカンボールの武勇
  第六章 ルコック氏
第六部 シャーロック・ホームズとニック・カーター
  第一章 「ニューゲート・ノヴェル」
  第二章 ニック・カーターの(幾度もの)死
  第三章 シャーロック・ホームズの演繹
  第四章 ロカンボール最後の変身

【著者紹介】

レジス・メサック (レジスメサック)

1893年、フランス大西洋岸のシャラント=マリティーム県に生まれる。1914年、第一次世界大戦に従軍、頭部に重傷を負う。1922年、高等教育教授資格(アグレガシオン)を取得、アイルランド、カナダの大学で教鞭を執る。1929年帰国、『「探偵小説」および科学的思考の影響』で博士号を取得するも、フランス国内の大学ではポストを得られなかった。モンペリエ、次いでクータンスの高校にてラテン語とフランス語を教える傍ら、自伝小説、SF小説、新聞小説、政治パンフレット、評論、書評等々、多分野にわたって旺盛に執筆。著作の大半が生前には未発表ないし未刊行で、刊行作品もほとんど注目されなかった。第二次世界大戦でフランスがドイツに占領されると、レジスタンス運動に参加。1943年、ゲシュタポに検挙され、「夜と霧」囚人としてドイツに移送される。複数の強制収容所を経たのち、1945年1月、消息を絶つ。グロス=ローゼン強制収容所ないしドーラ強制収容所でなければ、「死の行進」中に命を落としたと考えられている。戦後、1970年代に『半球の弔旗』をはじめとするSF作品が再刊ないし初刊行され、このジャンルの先駆者の一人として再評価されたものの、依然として「知る人ぞ知る」存在であり続けている。

石橋正孝 (イシバシマサタカ)

1974年神奈川県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学、パリ第八大学大学院博士課程修了、博士(文学)。現在、立教大学観光学部准教授。専門、19世紀フランス文学(ジュール・ヴェルヌ)。
主要著書―『大西巨人 闘争する秘密』(左右社、2010年)、『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険──ジュール・ヴェルヌとピエール゠ジュール・エッツェル』(左右社、2013年)、『あらゆる文士は娼婦である──19世紀フランスの出版人と作家たち』(白水社、2016年、共著)。主要訳書―アニエス・アンベール『レジスタンス女性の手記』(東洋書林、2012年)、フォルカー・デース『ジュール・ヴェルヌ伝』(水声社、2014年)、ジュール・ヴェルヌ『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションⅡ 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』(インスクリプト、2017年)、ミシェル・ビュトール『レペルトワールⅠ』(幻戯書房、2020年、監訳)など。

池田潤 (イケダジュン)

1984年大阪府生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学、パリ第四大学大学院博士課程修了。博士(文学)。現在、白百合女子大学言語・文学研究センター客員所員。専門、フランス文学、とくにマルセル・プルースト。
主要著書―『引用の文学史――フランス中世から二〇世紀文学におけるリライトの歴史』(水声社、2019年、共著)、Proust et l’acte critique(Honoré Champion、2020年、共著)、『身体と身体――パフォーマンス・批評・精神分析』(弘学社、2021年、共著)。

佐々木匠 (ササキタクミ)

1983年北海道生まれ。パリ・ディドロ(パリ第七)大学大学院博士課程修了。博士(テクストとイメージの歴史と記号学)。現在、早稲田大学文学部専任講師。専門、20世紀フランス文学。
主要論文―「監獄と芸術と不条理――アルベール・カミュ作品における語りの場」(『日本フランス語フランス文学会関東支部論集』27号、日本フランス語フランス文学会関東支部、2018年)、「アルベール・カミュ作品における孤独と連帯」(『フランス語フランス文学研究』114号、日本フランス語フランス文学会、2019年)。

白鳥光 (シラトリヒカリ)

1991年東京都生まれ。立教大学大学院文学研究科博士前期課程修了。在学中、パリ東大学に2年間留学。修士(フランス文学)。現在、フランスの出版社の国内代理店に勤務する傍ら、フランス語翻訳者として主に法定翻訳に携わる。
主要翻訳論文―アレクサンドル・マンジャン「ケ・ブランリ美術館―人類学、ミュゼオロジー、名称について」(Prétexte : Jean-Jacques Rousseau、2016年)。

槙野佳奈子 (マキノカナコ)

1985年茨城県生まれ。レンヌ第二大学博士課程修了。博士(フランス文学)。現在、宇都宮大学国際学部助教。専門、19世紀フランス文学・思想史。
主要論文―「超自然への関心と科学普及活動――ルイ・フィギエ『近代における驚異の歴史』」(『フランス語フランス文学研究』115号、日本フランス語フランス文学会、2019年)、「科学普及活動家ルイ・フィギエと死後の魂をめぐる問題」(『科学史研究』294号、日本科学史学会、2020年)。

山本佳生 (ヤマモトヨシオ)

1993年大阪府生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程在籍。現在、パリ第三大学ソルボンヌ・ヌーヴェルに留学中。専門、モンテーニュ、ルネサンス期のレトリックとコモンプレイスブック
主要論文―「モンテーニュ『エセー』におけるセネカ主義――エラスムスとリプシウスのはざまで」(『フランス文学語学研究』40号、早稲田大学大学院「フランス文学語学研究」刊行会、2021年)、"Citation et invention dans les Essais de Montaigne''(『フランス語フランス文学研究』118号、日本フランス語フランス文学会、2021年)。