ニカワヲタビスル
膠を旅する
内田あぐり 監修
青木茂/上田邦介/金子朋樹/北澤智豊/北澤憲昭/小金沢智/朴亨國/山本直彰 著
発売日 2021/05/14
判型 B5変型判 ISBN 978-4-336-07184-2
ページ数 240 頁 Cコード 0071
定価 4,180円 (本体価格3,800円)
【内容紹介】
古くから絵画をはじめ建造物や工芸品、楽器などの接着剤として世界中で使用されてきた膠(にかわ)。しかし今日において伝統的な手工業による膠の生産は途絶えてしまう。膠という伝統素材を後世に引き継いでいくため、本書ではこれまで顧みられることの少なかった膠づくりの歴史的背景を見つめ直し、北方先住民族の狩猟と皮なめし文化の調査からはじまり、大阪と兵庫に伝わる皮なめし技術、軍需により発展した関東の皮革産業地など、日本各地を取材。また、膠の研究を続ける画材店社長との鼎談や研究者による書き下ろし論考も収録。
膠を巡る文化の諸相を多角的に見つめる。
オールカラー。
◆膠(にかわ)
動物の皮や骨から生成されるゼラチンを主成分とする接着剤。日本では主に皮革製品の皮屑が使用されている。古代壁画や原始絵画の時代から使用され、日本画制作においては画面と絵画を接着するものとしてなくてはならない重要な素材である。
【第1章 膠の過去・現在・未来】
ウエマツ画材店・絵具屋三吉の社長(2020年退任)で膠の研究者である上田邦介、画家の山本直彰と内田あぐりによる異なる立場からの鼎談を収録。膠を中心としつつ、絵具、胡粉、素材と表現の必然性など、多岐にわたるテーマで膠の過去・現在・未来を語る。
【第2章 膠を旅する】
北方先住民族の狩猟と皮なめし文化の調査からはじまり、日本各地の皮革産業地帯を訪ね、実際の製造現場を取材し、最終的には牛と鹿から剝いだ一枚皮から膠づくりをおこなう。
北海道・網走市――動物資源の利用を探る
大阪・浪速区――太鼓づくりの皮革の町を歩く
大阪・貝塚市――太鼓屋嶋村に聞く 精肉店から太鼓屋になる
東京・墨田区――豚革生産の下町を歩く
埼玉・草加市――河合産業株式会社
兵庫・姫路市――大﨑商店 川漬け製法の伝統技術に挑む
膠をつくる――古典的製造過程の記録
ふたつのアトリエから 内田あぐり
【第3章 膠をめぐる論考】
日本画表現をめぐる3つの所蔵作品 北澤智豊
膠をめぐる往復書簡――日本画家・金子朋樹の事例を中心に 小金沢智、金子朋樹
神的暴力――ニカワ研究の余白に 北澤憲昭
膠雑考 朴亨國
画家たちの言葉――日本画を語り継ぐ、膠と表現を識る 青木茂
膠と私 内田あぐり
■本書に関連して、本書の内容を元にした展覧会が開催されます。
膠を旅する――表現をつなぐ文化の源流
会期:2021年5月12日(水)― 6月20日(日)
会場:武蔵野美術大学美術館 展示室4・5
主催:武蔵野美術大学 美術館・図書館
監修:内田あぐり
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/17269/
※本書は展覧会図録ではありません。
【著者紹介】
内田あぐり (ウチダアグリ)
1949年、東京都に生まれる。画家。1975年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻日本画コース修了。1975年創画会賞(87年、91年)、1993年第12回山種美術館賞展で大賞受賞、同年に文化庁在外研修員としてフランスに滞在。2002年第1回東山魁夷記念日経日本画大賞受賞。2003年〜04年、武蔵野美術大学在外研修員としてイギリスとアメリカに滞在。2019年神奈川文化賞、2021年第2回JAPA天心賞大賞受賞。近年の個展には、「内田あぐり――化身、あるいは残丘」(武蔵野美術大学美術館・図書館、2019年)、「生命のリアリズム:珠玉の日本画」において「特集展示 内田あぐり」(神奈川県立近代美術館 葉山、2020年)、「内田あぐり VOICES いくつもの聲」(原爆の図丸木美術館、2020年)など。今日まで一貫して「身体」をテーマに、絵画において人間の存在を示すものとは何かという根源的な問題に向き合う一方で、古典的な技法だけにとらわれず様々な表現方法を先鋭的に用いた作品は、現代絵画として新たな日本画の可能性を切り拓き続けている。現在、武蔵野美術大学名誉教授。
青木茂 (アオキシゲル)
1932年、岐阜県に生まれる。早稲田大学政治経済学部卒業。東京藝術大学図書館・芸術資料館(現・大学美術館)勤務。神奈川県立近代美術館主任研究員、跡見学園女子大学教授、町田国際版画美術館館長を経て、文星芸術大学教授。美術史家として、日本の近代洋画の開拓者である高橋由一を先駆的に研究、明治初頭の本格的な美術教育・美術展の動向に関する史料を収集し、編纂した著作を数多く上梓する。1987年、第37回芸術選奨文部科学大臣賞受賞。主な編著に『高橋由一油画史料』(中央公論美術出版、1984年)、『明治洋画史料 懐想篇』(中央公論美術出版、1985年)、『明治洋画史料 記録篇』(中央公論美術出版、1986年)、『明治日本画史料』(中央公論美術出版、1991年)、『近代日本アート・カタログ・コレクション』全89巻(監修、ゆまに書房、2001〜2008年)がある。長年にわたって収集した史料は、「青木文庫」として神奈川県立近代美術館に収蔵されている。現在、明治美術学会顧問。
上田邦介 (ウエダクニスケ)
1939年、東京都に生まれる。ウエマツ画材店・絵具屋三吉の社長として、絵画材料の研究開発に専念する。江戸時代の土佐派を代表する絵師のひとり、土佐光起が遺した史料『本朝画法大伝』(1690年)を読み解き、黄明膠の再現を試みる。伝統的な画材を徹底的に研究する一方で、新素材のメディウム開発に取り組み、オリジナル商品である樹脂膠(アートグルー、レジングルーなど)を生み出してきた。現在は、有限会社ウエダ代表取締役、絵画材料研究室・籔唐房主宰。
金子朋樹 (カネコトモキ)
1976年、静岡県御殿場市に生まれる。2006年、東京藝術大学大学院博士後期課程美術専攻日本画研究領域修了。2007年にアーティストグループを発起、2009年「ガロン」始動。2011年静岡県文化奨励賞。主な展覧会に2016年「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(2018年、2020年)、2019年「金子朋樹展 パントノミー―白紙も模様のうちなれば―」佐野美術館企画 さんしんギャラリー善(静岡)、「ガロン第3回展 metamorphosis」、2020年「おやま豊門芸術祭 うつろいの住処-それぞれの地平-」豊門会館 旧和田豊治家住宅(静岡)、2021年「第24回 岡本太郎現代芸術賞展」川崎市岡本太郎美術館(神奈川)、「第8回 東山魁夷記念日経日本画大賞」上野の森美術館(東京)など。日本の絵画・文化の文脈を再構築した表現を行なう。現在、東北芸術工科大学美術科日本画コース准教授、同大学みちのく現場考主宰。
北澤智豊 (キタザワトモト)
1980年、東京都に生まれる。武蔵野美術大学 美術館・図書館 学芸員。2005年、筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科芸術学専攻修士取得、同年から21_21 DESIGN SIGHTの設立準備から携わり館運営全般を担当する。2010年、学校法人武蔵野美術大学に入職し、大学美術館リニューアルに携わる。以降、主な担当展に「杉浦康平・脈動する本」(2011年)、「ET IN ARCADIA EGO 墓は語るか」(2013年)、「戸谷成雄――現れる彫刻」(2017年)、「内田あぐり――化身、あるいは残丘」(2019年)、「オムニスカルプチャーズ――彫刻となる場所」(2021年)などがある。
北澤憲昭 (キタザワノリアキ)
1951年、東京都に生まれる。美術評論家、美術史家。武蔵野美術大学客員教授。日本近現代美術史研究に従事。「日本画」に関する主な著書に、『眼の神殿――「美術」受容史ノート』(初版 美術出版社、1989年。定本 ブリュッケ、2010年。ちくま学芸文庫、2020年。1990年、サントリー学芸賞を受賞)、『境界の美術史――「美術」形成史ノート』(ブリュッケ、2000年)、『「日本画」の転位』(ブリュッケ、2003年)、『〈列島〉の絵画――「日本画」のレイト・スタイル』(ブリュッケ、2015年)がある。
小金沢智 (コガネザワサトシ)
1982年、群馬県に生まれる。キュレーター。世田谷美術館、太田市美術館・図書館学芸員を経て、2020年4月より、東北芸術工科大学芸術学部美術科日本画コース専任講師。2008年、明治学院大学大学院文学研究科芸術学専攻博士前期過程修了。「現在」の表現をベースに据えながら、ジャンルや歴史を横断するキュレーションを得意とする。これまでの主な企画に、「未来への狼火」(2017年)、「ことばをながめる、ことばとあるく――詩と歌のある風景」(2018年)、「佐藤直樹展:誌面・壁画・循環」(2019年)、「2020年のさざえ堂――現代の螺旋と100枚の絵」(2020年)、開館3周年記念展「HOME/TOWN」(2021年)[いずれも太田市美術館・図書館]など。
朴亨國 (バクヒョングク)
1965年、韓国に生まれる。1985年3月延世大学校史学科入学、1994年3月武蔵野美術大学大学院造形学コース修了、1998年3月名古屋大学大学院博士後期課程(美学美術史専門)修了、文学博士。日本学術振興会特別研究員や日本国政府アンコール遺跡救済チーム美術史班班長、国際日本文化研究センター共同研究員、愛知県史編纂委員会特別調査委員などを経て2002年4月より武蔵野美術大学で教鞭を執る。密教図像学会佐和隆研博士学術研究奨励賞(1996年)や第13回國華賞(奨励賞、2002年)、第1回日韓仏教文化学術賞(2002年)などを受賞。専門は仏教彫刻史、密教図像学。著書に『ヴァイローチャナ仏の図像学的研究』(法蔵館、2001年)、『カラー版 東洋美術史』(共著、美術出版社、2000年)、『愛知県史 文化 3 彫刻』(共著、愛知県、2013年)、『東大寺・正倉院と興福寺』(日本美術全集 第3巻 奈良時代 Ⅱ、共著、小学館、2013年)、『東洋美術史』(監修・共著、武蔵野美術大学出版局、2016年)ほか、論文・共著など多数ある。
山本直彰 (ヤマモトナオアキ)
1950年、神奈川県横浜市に生まれる。画家。1967年から1969年まで、小林昭夫洋画研究所(Bゼミの前進)に通う。1975年、愛知県立芸術大学大学院日本画学科修了。1990年より、和光大学非常勤講師。1992年から1年間、文化庁芸術家在外研修員としてプラハに滞在。2009年武蔵野美術大学 造形学部日本画学科客員教授に着任、2011年より同学科特任教授を務める。大学在学時から創画会を主な発表の場とし、創画会賞を四度受賞するも、2007年退会。2010年芸術選奨文部科学大臣賞、神奈川文化賞受賞。近年の主な展覧会に、「日本画の今 山本直彰展 帰還する風景。」(平塚市美術館、2009年)、「ASK SEEK KNOCK DOOR」(コバヤシ画廊、2017年)、「腐乱の果実」(パラボリカ・ビス、2017年)、「Door is Ajar ドアは開いているか 山本直彰展」(武蔵野美術大学 美術館・図書館、2020年)など。