ニホンゴトアラビアゴノカンヨウテキヒョウゲンノタイショウケンキュウ
日本語とアラビア語の慣用的表現の対照研究
比喩的思考と意味理解を中心に
アブドーラアルモーメン 著
発売日 2015/01/22
判型 A5判 ISBN 978-4-336-05843-0
ページ数 320 頁 Cコード 3087
定価 6,380円 (本体価格5,800円)
【内容紹介】
言語の意味とは、人間の経験に動機づけられた、言語使用者による外界認識の産物である。このような観点から慣用表現の意味を分析することによって、日本語あるいはアラビア語に属する言語共同体の成員がどのように外界を把握しているのかを示すことができる。
本書では慣用表現の意味的・統合的性質を分析し、日アの慣用表現に見られる比喩性と意味理解の性質を明らかにする。そのために、抽象的語彙である「死」「恋愛」「時間」にまつわる日アの慣用的表現を、対照言語学・認知言語学に基づいて分析し、次の2点を主に考察する。
1.日アそれぞれの、「死」「恋愛」「時間」という抽象表現にまつわる慣用表現の概念的背景とその意味理解。
2.概念的意味に基づき、「人と人との関わり」「個人のペルソナ性格」「生活・活動」という3つの〈人間的項〉にまつわるアラビア語慣用的表現を分類する。
第1章では、慣用表現研究の流れを概観し、扱われてきた問題を確認する。それから、本書の目的と構成を記し、資料などを示す。
第2章では、日アそれぞれの慣用表現を、構成成分に注目して類型化する。両言語の慣用表現の形式的や語彙的特徴を体系的に捉えるため、本章では分析対象とするアラビア語の慣用表現を品詞で類型化し、その全体像と具体的な種類などを示し、表現形式に着目してアラビア語慣用表現の構成内容を分析していく。さらに、分析対象となるアラビア語慣用表現を大別し、アラビア語慣用表現の各タイプと対応する日本語の各タイプも併せて提示していく。
第3章では、日本語の慣用表現を意味によって分類した先行研究を振り返りながら、意味分類に関する先行研究がほとんどないアラビア語慣用表現の分類の可能性を模索し、意味に基づいて分類するための基準を設定する。本書では、収集したアラビア語慣用表現の大分類として「人間的項」と「モノ的項」の2種類を設定し、「人間的項」の下位分類として中分類と小分類を設ける。
本書における慣用表現の意味分類とは、慣用表現を共通の性質に基づいた種類に分けることであり、同類のものをまとめて、体系づけることである。1つの固有言語の慣用表現を分類し、それらの表現をそれぞれの類に当てはめて配列するということは、人間が認識している意味の世界を分類することであると同時に、その言語に属する共同体の成員が認識する世界を分類することでもある。
第4~8章では、慣用的メタファー表現の意味拡張とその認知的基盤についての基本的議論として、背景理論や関連用語を取り上げる。慣用表現にはある特定の慣用的意味が成立しているが、それが発生する動機づけを明示し、「死」「恋愛」「時間」にまつわる日アの慣用表現の概念的意味を明らかにしていく。慣用表現にはその表現全体の文字通りの意味から慣用的意味が生じる。その際に、具体的にどのような意味拡張の仕組みが関与しているのかを検証していく。
第5~8章の分析では、日アの「死」「恋愛」「時間」にまつわる慣用表現を分析対象とし、それぞれの概念的意味およびその慣用表現に反映される文化的モデルを明らかにする。アラブ社会では宗教意識が高いことに加えて自由恋愛が禁忌となっているが、「死」「恋愛」「時間」にどのようなバイアスが観察できるか、などについても論じていく。
第9章では、これまでとは一転して具体的な身体の部分である「顔」にまつわる慣用表現を比較する。
第10章では、本書のまとめと今後の展望を記す。
第2・5・6章末には、読者のアラブ理解を容易にするため、アラブの詩や慣習を紹介するエッセイを付した。
アラビア語慣用表現と対照言語学に先鞭をつける日ア対照研究必携の書。
【著者紹介】
アブドーラアルモーメン (アブドーラアルモーメン)
エジプト・カイロ生まれ。
2001年学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。同大学大学院人文科学研究科で、日本語とアラビア語の対照言語学を研究、日本語日本文学博士号を取得。
NHKテレビ・アラビア語講座講師のほか、NHK・BS放送アルジャジーラニュースにおいて天皇・皇后両陛下やアラブ諸国首脳、パレスチナ自治政府アッバース議長などの放送通訳を務める。
元サウジアラビア王国大使館文化部スーパーバイザー。
東海大学・国際教育センター准教授。
主な著書に『地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人』(小学館)、『アラビア語が面白いほど身に付く本』(中央出版)などがある。