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地論思想の形成と変容

金剛大学仏教文化研究所 編

発売日 2010/06/29

判型 A5判   ISBN 978-4-336-05239-1

ページ数 448 頁   Cコード 0015

定価 17,600円 (本体価格16,000円)

【内容紹介】

 中国南北朝時代に隆盛し、北朝で絶大な影響力を誇った地論学派。世親造『十地経論』を講究する中国最初の唯識学派であるが、如来蔵思想にも接近し、中国独自の仏教思想を形成した。同時代の学匠に大きな影響を及ぼしながらも、やがて南道派と北道派に分かれ、一部は摂論宗へ吸収され、中国仏教史上から姿を消す。
 序章の石井公成論文では、日本における地論宗の研究の主要な動向と今後の課題とを記す。
 第一章「地論思想の形成とその周辺」では、中国仏教史に多大な影響を及ぼした地論思想の形成過程を探り、その淵源や背景を探る。
 青木隆論文は、敦煌写本を資料として、地論宗南道派の教判説・五門説・縁集説の系譜と思想的経過を編年的に整理する。大竹晋論文は、地論宗の唯識説について、地論宗の主要な学匠の唯識説だけでなく、当時を代表する学匠への影響の有無などを論じる。
 金京南論文は、地論宗所依の経論が漢訳される過程で生じた問題を、思想と訳語との面から取り上げる。崔鈆植論文は、地論宗成立よりも若干早い時代に活躍した霊弁が著した現存最古の『華厳経』註釈書『華厳経論』の思想的特徴を論じる。『華厳経論』には地論思想の萌芽が認められるのである。張文良論文は、その『華厳経論』における「心」の特質を論じる。
 第二章「地論宗関連文献の諸問題」では、地論宗に関係する文献をテーマとした論考を収める。
 岡本一平論文は、地論宗南道派の代表的学僧浄影寺慧遠の著作の成立を整理する。池田将則論文は、敦煌写本俄Ф一八〇を詳細な訳註作業を通して再検討し、撰述者を推定する。金天鶴論文は、地論宗後期に位置し、逸文のみが新羅の文献に残る懍『法鏡論』における地論思想を扱い、地論思想の結末を提示する。石吉岩論文は、思想的な見地から『大乗起信論』の地論宗撰述説に疑問を呈する。Frédéric Girard論文は、敦煌写本S四三〇三に見られる体・相・用と『大乗起信論』との関係に着目して分析する。
 第三章「地論思想と他教学」では、地論宗と同時代に起こった三論、天台、三階教の教学との比較から、地論思想の特質や当時の影響力を検討する。
 吉津宜英論文は、『維摩経』不二義の解釈について、三論宗の大成者吉蔵が地論宗の代表的学僧浄影寺慧遠を批判した文脈を抽出し、両者の思想的相違点を追求する。崔箕杓論文は、天台智顗の地論師に対する批判を主に『法華玄義』から抽出し、その論点をまとめる。西本照真論文は、地論宗とほぼ同時期に消長した三階教の思想的基盤を地論宗文献に追求する。
 第四章「地論思想から華厳思想への変容」では、地論宗と東アジア仏教思想界に台頭した華厳宗との関係を論じる。織田顕祐論文は、六相説の地論宗から華厳宗への展開を検討し、そこから智儼の一乗縁起と法蔵の法界縁起の思想的関係性を探る。Imre Hamar論文は、地論宗と華厳宗第二祖智儼との関係を論じる。Robert M. Gimello論文は、新羅華厳宗の初祖とされる義湘へ与えた影響を論じる。
 重要性は意識されながらまとまった研究のなかった地論学派について、各国研究者が集まり編纂された本書は、地論思想研究の出発点となろう。

【著者紹介】

金剛大学仏教文化研究所 (コンゴウダイガクブッキョウブンカケンキュウジョ)