各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

作家/翻訳家谷崎由依

《日本幻想文学集成》(全33巻)

富士川義之/池内紀/種村季弘/松山俊太郎/橋本治/堀切直人/須永朝彦/別役実/矢川澄子 編

高校の隣にあった図書館の、いつも座った席の傍に《日本幻想文学集成》がならんでいた。「夢十夜」も「風博士」も、かねて知っていた漱石や安吾より肌に合うと感じた。そのときから兆候はあった。大学に入り、紆余曲折の末にボルヘスで論文を書くことになった。

『創造者』(新装版)

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 著 鼓直 訳               

《バベルの図書館》や《ボルヘス・コレクション》、『ボルヘスの世界』など大変お世話になったが、一冊挙げるなら『創造者』だろうか。削ぎ落とされた書き手の言葉が、読まれることにより翼を広げる余地がこの組版にはある(つまり文庫版が出てもなお)。

『ラピスラズリ』

山尾悠子 著                 

馴染めなかった大学なのに修士にまで進んでやはり馴染めず、休学してうろうろしていたころに出会ったのが『ラピスラズリ』だった。幻想文学へ向かう理由はひとそれぞれだろうけど、わたしの場合それは孤独だったと思う。冬の日、ひとひらの雪のように手のなかへ降りた碧い本は、長いこと、誰とも分かち得ない、わたしだけの希望だった。