各界著名人による各界著名人による私が選ぶ国書刊行会の3冊

小説家磯﨑憲一郎

《新編 バベルの図書館》(全6巻)

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 編纂・序文              

泉鏡花文学賞の受賞者は金沢市内で行われる授賞式で、スピーチというよりは講演と呼んだ方が正しいのであろう、四十五分間にも亘って壇上で話をせねばならないのだが、今から九年前の授賞式で私は、旧版の《バベルの図書館》第三巻、『人面の大岩』を左手に掲げ、そこに収められた短篇「ウェイクフィールド」について話をした。

『ムージル書簡集』

ローベルト・ムージル 著 圓子修平 訳               

読者に阿るようにして、気軽に手に取り易い本ばかりが量産される出版業界あって、「お前は、この本を読むだけの覚悟が定まっているのか?」と挑発してくる版元は稀有だ。創業五十年を迎えた国書刊行会は、これからも読者を「身構え」させる出版社であり続けて欲しい。

《後藤明生コレクション》(全5巻)

後藤明生 著 いとうせいこう/奥泉光/島田雅彦/渡部直己 編集委員         

国書刊行会という出版社名は、ある忘れ難い記憶と共にある。泉鏡花文学賞の受賞者は金沢市内で行われる授賞式(……)後の懇親会で、選考委員の金井美恵子さんと初めてお会いした。ちょうど前年にホーソーンの短篇集と同じタイトルの単行本を上梓したその作家は、挨拶もそこそこに満足気に微笑みながら、私に向かってこういった。「国書刊行会の本なんて持ち出したら、皆が身構えてしまうじゃない!」