翻訳家垂野創一郎
『完訳 エリア随筆』(全4巻)
チャールズ・ラム 著 南條竹則 訳 藤巻明 註釈
一冊目は何ということもない雑談の集成だが、これほど滋味豊かな雑談も珍しかろう。たまに英国人の酷薄性を感じさせるのもまた味わい深い。本文より大量の訳註もこの書の価値を高めている。「豚の目が涙目になって飛び出してくるのは焼き上がりが近づいた証拠」とか、訳註だけを拾い読みしても面白い稀有の書。
『「探偵小説」の考古学 セレンディップの三人の王子たちからシャーロック・ホームズまで』
レジス・メサック 著 石橋正孝 監訳 池田潤/佐々木匠/白鳥光/槙野佳奈子/山本佳生 訳
二冊目はエラリー・クイーンが国名シリーズで定着させた推理小説的ロジック(本書の言葉で言えば演繹法)の歴史を、科学思想の発展と絡めて詳述した大著。もっとも著者はクイーンなど名さえ知らなかったろうが、『ローマ帽子の謎』と同年に出たこの本は、クイーンの切り拓いた推理小説の方向を指し示した予言の書ともいえるかもしれない。
『アルフレッド・ジャリ全集』(近刊)
アルフレッド・ジャリ 著 宮川明子/相磯佳正/江島泰子/谷昌親/永井敦子/合田陽祐 訳
国書のさらなる発展を願って近刊の書からも一冊。ひとたび出現すれば読書界に激震をもたらすに違いないこの全集は、きっと今も時限爆弾のように、人知れず静かに針を進めていることだろう。固唾を呑みその爆発を待つ者は自分一人ではあるまい。