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新刊ノンフィクション『狂人たちの世界一周』内容紹介

更新日:2024/10/03

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海洋史上最大の未解決事件「ドナルド・クロウハースト事件」の真実!
新刊ノンフィクション
『狂人たちの世界一周』

1968年イギリスで開催された
史上初の無寄港世界一周ヨットレース。
出航者9人の相次ぐ脱落、遭難、自殺。
10か月後、帰ってきたのは......
狂気へと堕ちていく極限状態の人間を描き切った
傑作ノンフィクション。

★10月16日発売の新刊ノンフィクション『狂人たちの世界一周』(ピーター・ニコルス著/園部哲訳)より、一部を抜粋して以下ご紹介します。

◆1968年のイギリス。経歴のさまざまな9人の男たちが小さなヨットに乗りこみ、無寄港世界一周レースという無謀かつ人類初の記録に挑もうとしていた。レースはスポンサーによって《ゴールデン・グローブ・レース》と名づけられた。

このレースは歴史的な偉業として称えられるとともに、海洋競技史上最大の謎「ドナルド・クロウハースト事件」としても、長く語り継がれることになる。

陸地からはるか遠く、大海原のまっただ中で、絶対の孤独に吸い込まれていく恐怖。人間の精神は限界を超え、狂気へと堕ちていく。

「嘆かわしいまでに正常」なノックス=ジョンストン、放浪に憑りつかれたモワテシエ、謎に満ちたクロウハースト......9人の男たちは、史上最長、最も孤独な航海になぜ旅立ったのか? そして、成功と破滅を分けたものとは?

ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナル、ガーディアンなど海外で絶賛!イギリスの書店ベストセラーにランクイン!
本書で描かれるヨットレースを舞台にした映画『喜望峰の風に乗せて』も公開(2017年、主演は『英国王のスピーチ』のコリン・ファース)。

◆レース参加者たち
彼ら9人はスポーツマンでもなかったし、専業のヨット競技者でもなかった。そのうちの1人は帆走の技術を知らぬまま出港している。準備の仕方も船の状態も、乗り手の個性のようにまちまちで、その相違は驚くほどだった。いったん海に出るや、彼らは想像を絶する恐怖と、人間の経験領域を超えた孤独にさらされるのだった。

荒れ狂う波、ハリケーンに打ちのめされ、脱落していく者。
ヨットと航海を愛しすぎ、競技そのものを放棄して自由を選び取った者。
追いつめられ、狂気に堕ちていく者。
彼らの様子を残された航海日誌から見てみよう――

▶レースの序盤、参加者たちは落ち着いて航海を楽しんでいる。

ロビン・ノックス=ジョンストン「水泳のあとはゆっくりと昼食。だいたいビスケットとチーズか何か、特別な機会にはごちそうとしてタマネギのピクルス。午後の過ごし方も午前中と同じようなもので、午後五時まで仕事か読書。気が向けば五時以降は何もしないでビールかウィスキーを飲む。」

ベルナール・モワテシエ「わたしは、再び外洋の風を浴びる必要性を感じていた。あの瞬間は何物にも代えがたかった......(略)飼い慣らされたカモメはときどき遠くの海へ消えてしまいたくなるが、なぜそんなことをするんだとカモメには訊かないだろう。飛んでいってしまう、ただそれだけのこと。」

▶航路が進むにつれ、いよいよ荒れ狂う海が彼らに牙を剥く。

チャイ・ブライス「全部のセイルを下ろしたあと、もはや祈ることしかできなかった。だから、わたしは祈った。折に触れては帆走マニュアルの中に有効なアドバイスを探そうとした。まるで地獄で取り扱い説明書を繰っているようだった。」

▶参加者たちは打ちのめされ、自信を失っていく。
 
ジョン・リッジウェイ「これまでの人生で何かを途中であきらめたことはなかった。」(と彼はログブックに書いた)「だが今、わたしはつまらない無能な男になってしまったような気がする。未来も空疎にしか感じられない......。」

ロビン・ノックス=ジョンストン「ものすごい揺れが続き、キャビンの中で立っているのは難しかったが、何とかスープを温めることはできた......(略)4回強風と戦ったあと、手はすりむけ、ひどい切り傷だらけで、皮がむけ爪が割れたせいで指が痛む。あちこちへ突き飛ばされてわたしの身体はアザだらけだ。(略)まだ150日も過ごさなければならない。そのあいだにゾンビになってしまうだろう。」

チャイ・ブライス「結局のところ、自分が知りたいのはいつになってもわたし自身のことだったのだ。(略)これは発見の旅であり、発見したかった対象はわたし自身だったのだ。」

▶ある者は、競技よりも旅の自由を選び取ろうとする。

「わたしの意図は引き続きノンストップで太平洋の島々へ向けて旅を続けることです。あそこにはヨーロッパよりも太陽がたっぷりあってずっと平和です。(略)海にあって「記録」とは非常にばかげた言葉です。わたしはノンストップで走り続けますが、それは海にいることが幸福だからであり、そしてたぶん自分の魂を救いたいからなのでしょう。」

▶そして、狂気に堕ちていく者も。

「あるメッセージを授かるという途方もない機会を得たような気がしている――そのメッセージとは世界を救うであろう深淵な知識なのだ」
「もし創造的抽象化が新しい存在のための一手段として機能することになるのであれば、そしてこれまで安定していた状態を去ることになるのであれば、創造的抽象化の内部には驚異的現象を生み出す力があるのだ!!!!!!! われわれは創造的抽象化によって驚異的現象をもたらすことができるのだ!」

小さな船中に閉じこめられ、世間の目から隔離され、一切の虚飾を削ぎ落とした9人の男たちは、本当の自分に出会うことになる。
絶望の淵へと追われた彼らの運命は? 
★この続きはぜひ本書でご確認ください(電子書籍も同時発売)

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【著者】ピーター・ニコルス(Peter Nichols)
1950年アメリカ生まれ。作家。プロのヨットチャーター船長を10年間務め、小型ボートで 単独大西洋横断の経験がある。 ジョージタウ ン大学などでクリエイティブライティングを教 え、ノンフィクション作品で米プッシュカート賞 にノミネートされる。 著書に『Voyage to the North Star』 (国際IMPACダブリン文学賞ノミネート)、 『The Rocks』 など。

【訳者】園部哲(そのべ・さとし)
1956年生まれ。翻訳家。訳書に『スターリングラード』(全3巻)、『第三帝国を旅した人々』、『ニュルンベルク合流』、『上海フリータクシー』、『エリ・ヴィーゼルの教室から』(以上、白水社)など多数。著書に『異邦人のロンドン』(集英社インターナショナル)。同書は2024年、第72回日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。


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史上初のヨット無寄港世界一周レースという歴史的偉業に挑んだ男たち。海洋競技史上最大の謎「ドナルド・クロウハースト事件」の真相、成功と破滅に翻弄された9人の運命を追う、傑作ノンフィクション。
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